<3・たった一人の理解者。>

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「放課後、旧校舎に太田川さんを呼び出したから、二人で決闘しにいこうって話になったんです。旧校舎なら立ち入り禁止だし、他の人も来ないから」 「よ、よくあんな場所選んだな……」 「これをきっかけに入りたかったってのはあるのかも。麗華ちゃん、探検大好きだし」 「あー、なるほど」  この学校の敷地には、ボロボロの木造校舎が残っている。現在使われていない旧校舎、というやつだ。ただし、残っているのは元の建物の半分程度。半分くらい壊したところで工事が急遽中止してしまったらしい。  粗方、あそこを縄張りにしている幽霊たちが抵抗でもしたのだろう。特にトイレの花子さんなんかは“新校舎のトイレには別の幽霊が住み着いちゃったのよ!あそこ壊されたらあたし達のいる場所なくなっちゃうじゃないの!!”と嘆いていた記憶がある。そりゃ、壊されたら困るのは間違いあるまい。  何か大きな怪異が起きたわけではなさそうだが、とにかく老朽化しているし、倒壊の危険があるのも間違いない。現在生きた人間は立ち入り禁止で、立て札とチェーンで封鎖されているはずである。 「……待ち合わせは、旧校舎入ってすぐ、一階下駄箱の前のはずだった。でも……何故か、呼び出したはずの麗華ちゃんも太田川さんも来なかったの。誰も、誰も来なくて、薄暗い校舎の中で心細くて、独りぼっちで……しかもなんでだか校舎の中から出られないし」  思い出したのだろう。目に涙を浮かべて告げるメル。 「校舎の中をうろうろしてたら、四階の廊下が壊れて、落下しちゃって。……多分私、それで死んじゃったんだと思います。幸い、すごく大きな音がしたから、用務員さんがわりとすぐ駆けつけてくれたみたいで。私、その時はまだ意識はあったんだけど、体中痛くて痛くて……気づいたら、この図書室で幽霊になってた、というか」  なるほど、とゆきりは理解した。  段々と見えてきた。どうしてこの少女が、成仏できないまま現世に残ってしまったのか。  彼女は自分の死んだ経緯に納得していないのだ。正確には、どうして旧校舎にいじめっ子も友人も来なかったのか。最後、どうしてあのようなことになったのかわからない、それが未練になっているということだろう。  もちろん、いじめっ子と親友に言いたいことがあるとか、死にたくなかったとか、そういうのもあるのだろうが。 「おおよそ状況は理解した。それで、君はどうしたいんだ?」 「……何が起きたのか、真実を知りたいです。それに」  メルは目元をごしごしと拭う。 「それに。何か、大切なことを忘れてるような気がして。その記憶を、どうしても思い出したいんです」
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