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<16・未練、決着、終わりと始まり。>
掲示板で望まれた通りの展開だったと言えばいいか。
四階から落下したにも関わらず、彼女は“死んで”はいなかった。思念体だから死でいなくてもおかしくはないが、それでも掲示板の民が“太田川春名に死んでほしい”と頼んだら彼女は消滅していたはずだ。
そうならなかったのは。
四階から落下した彼女が、校舎の裏で無様に下着を丸出しにした状態で倒れていたのは。
彼女のそんな姿と、“まだまだこのゲス女をサンドバッグにしたい”という掲示板の民らの歪んだ感情が、彼女を永らえさせたからこそ。
「うう、ううううううううううううううううっ!」
ゆきりが到着すると、彼女は繁みからどうにか体を起こしているところだった。
「いたい、はずかしい、いたい、どうして、くやしい、おのれ、のろってやる、つぶしてやる、いたい、くるしい、ふざけるな、いやだ、ころしたい、きずつけたい、ぶざま、ゆるせない、むかつく、じょうだんじゃない、このやろう、いたい、はずかしい、いたい、どうして、くやしい、おのれ、のろってやる、つぶしてやる、いたい、くるしい、ふざけるな、いやだ、ころしたい、きずつけたい、ぶざま、ゆるせない、むかつく、じょうだんじゃない、このやろう……!」
ぶつぶつぶつぶつ。呪詛の言葉を吐いて、土にまみれていく少女。あまりにも――あまりにも哀れな存在だった。
彼女の悪意は、彼女のものではない。
“太田川春名という断罪されて当然の巨悪はこれだけの悪意をもっていて、悪行をなしているべき”と考えた者達の手によって作られたもの。
彼女だってけして――こんな役目で、産まれたかったわけではないだろうに。
「太田川春名」
ゆきりは、彼女の傍に立って言った。
「掲示板の連中はまだ、このあとお前がどうなるかは考えてないし相談してない。……ここから先は、まだ何のシナリオも決まってない。でも……お前もわかってるはずだ。このまま自分が存在したら、延々と踏みつけにされ続けるだけだと。そしてお前自身も、本当は憎んでもない相手を憎むための道具にされるってことが」
彼女をこのまま放置したら、春名はまた彰乃や、あるいは別の誰かを虐めることだろう。
そしてまた、メルたちのような犠牲者を出してしまうかもしれない。そして、虐めを続けなければいけない春名も延々に救われることはない。なんせ彼女がいじめをするのは、最後に断罪されるため。ざまあ!と嘲笑われ、正義を騙る者達に踏みつけにされるという結末が決定されてしまっている。
誰も救われない。
メルたちも、彰乃も、他の生徒たちも――春名自身も。
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