<16・未練、決着、終わりと始まり。>

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「俺が願ってやる」  ゆきりは呟いた。 「俺が、お前の幸せを願ってやる。……“太田川春名は、四階から落ちて、そのまま死んだ。そのあとは罪を償うため煉獄に行き、罪を洗い流されたあとで天国で幸せになる”。妥当なところだろ。お前からすれば、この結末でも不満だろうが」  願われた悪意とはいえ、彼女がメルたちを死に追いやったのは事実。罪は、償わなければならないだろう。そして、償ったという事実がなければ他の者達も納得できないだろう。 「わ、私も……」  メルが、すっと前に出た。太田川春名は、彼女を苦しめた存在に他ならない。本当はとても恐ろしい相手であるはずなのに。 「私も、願う。貴女の幸せを……願うよ。だから……もう、休もう?」  春名は。  わなわなと体を震わせた。ふざけないで、とその唇が動く。だから。  ゆきりはメルより前に出たのだ。飛び掛かってきた春名を抱きしめるために。 「あ、あああああああああああああああああああああああああああ!」  どんっ!と思い切りゆきりに殴りかかってきた少女の手を抑えて、ゆきりは彼女を抱きしめた。強く強く、もう大丈夫だと言い聞かせるために。  するとどうだろう。無傷に見えた彼女の頭から、血が流れ始めた。さながら本当に四階から“人間が”落ちたかのように。 「あ、ああああああああああああ、痛い、あああああああああああああああ痛い、痛い。痛い、あああああああああああああああああああああ!」 「人として、おやすみ」  ゆっくりと、春名の体が透けていく。 「もう二度と、お前がこの世界に来なくて済むように……俺達も、できることをするからさ」  ゆきりの腕の中で、少女は光となって消えていく。  後には、放課後の静寂だけが残ったのだった。 「……メル?」  そして、もう一つ解けた呪いが。  小さな声に視線を向ければ、校庭の方からこちらに走ってくる長身の少女の姿があった。メルが驚いたように叫ぶ。 「れ、麗華ちゃん!」 「メル!」  二人は互いに駆け寄り、抱きしめ合ったのである。太田川春名の力から解放され、ようやく再び巡り合うことができたのだと。
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