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1.消季
「お集りいただき、誠にありがとうございます」
純白に沈むだだっ広い空間。そこに置かれた無機質なテーブルを囲んでいた四人が、声に反応して顔を上げる。
定刻から少し遅れて現れた黒いスーツ姿の男が、四人からの視線を受け、へらりと笑って頭を下げていた。
「遅くないですか、神。時間厳守といつも仰るくせに」
そう言ったのは栗色の髪を長く背中にときながし、レンガ色のワンピースを着た若い女性、秋だ。
「本当に。あんまり待たされると腰が痛うてかなわんわい」
言いながら片手で白い髭をしごき、片手で腰をさすったのは春。その姿を見て、ちっと舌打ちしたのは冬。革ジャンを羽織り、革のパンツを身に着け、金色に染めた髪をつんつん立たせている。その彼が貧乏ゆすりをするたびに手首に巻かれた鎖状のブレスレットが耳障りな音を立てた。
「じいさんはぼーっと寝てるだけだろ。こっちはあんたと違っていろいろ忙しいんだよ。やり過ぎず、やらなすぎずのぎりぎりの匙加減で冷え込みを調節するっていう、超絶難易度高い役割をこなしてるんだからさ。今年はどうするか計画立てるのも大変だし」
「自分ばかり忙しいように言わないで。こっちだってそれは同じよ」
冬のブレスレットの音に眉をひそめつつ口を開いたのは、幾分白髪が混じり始めた髪をきっちりと後ろで束ねた中年の女性、夏である。真っ白なノースリーブのワンピースの袖口から覗いた、たるみが目立つ二の腕を自身でつまみつつ、夏は続けた。
「暑すぎても駄目。暑くなくても収穫に影響が出るから駄目。雨の量を気にしつつ回すのってめちゃくちゃ神経使うのよ。冬、自分ばかりが大変みたいに言わないで」
「俺は事実を言ってるだけだよ。オバサン」
「おば……っ!」
「まあまあ、落ち着いてください」
夏が顔を赤くして立ち上がるが、それを制したのは遅刻してきた男、神であった。神の仲介によって矛を収めた夏と冬にメガネのレンズ越しに微笑みかけてから、神は本題を切り出した。
「本日フォーシーズンの皆様にお集まりいただいたのは他でもありません。ご相談があったからなのです」
「相談ってなんです?」
秋がワインレッドに染まった唇を尖らせつつ訊ねる。他の三人も面倒そうな顔をしつつも、神の顔に注目した。
テーブルの一辺に春と夏、その向かいの辺に秋と冬が座っている。その彼らすべてを見渡せる席、いわゆるお誕生日席の椅子を引いて座った神は、深い息を吐く。その後、全員の顔をまんべんなく眺めてからおもむろに口を開いた。
「世界神連合よりお達しがありました。この地域、日本と国名で表されるこの地域において、季節をひとつ減らすようにと。ですから」
神は銀縁眼鏡の蔓にすうっと指を添わせ、ゆっくりと言葉を継いだ。
「申し訳ありませんが、今日、この場で、この中からおひとり消えていただきたいのです」
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