snow memory【序曲】 完

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snow memory【序曲】 完

「……という事でよろしくね!」  彼女からの言葉にて、瞬時に夢から現実に引き戻される。  ここで話しが終了した事をその場で初めて知った今。ふと相手に見ると要件が済み、立ち上がり去ろうとしている最中だった。  流石にマズいと焦り、去ろうとしている彼女の手を咄嗟に取る。だが後ろから急に手を引っ張られバランスを崩し、後ろへ倒れてしまった。  (ーーしまった。コレは、受け身を取れない)  鴨上は、背中を強打する覚悟で咄嗟に後頭部を手でガードしようと体勢を変える。そして目を閉じた。  だが、いつまで経っても痛みは無い。その代わり、ガッシリとした何かに背中を包み込まれている感覚がした。 「大丈夫か?アンタ」  彼の上に倒れてしまう体勢になってしまい、腕の中で抱きしめられると今気づいた鴨上。 (やっば!やってしまった……。その前にお礼を言わなきゃ!) 「ごめんね!嵐くん、大丈夫?今、どくからね」  直ぐに立ちあがらなくては、と体勢を直そうと彼の方へ見上げた。  だが、目の前の相手は無反応。疑問に持ちつつも、鴨上は静かに立ち上がった。 「……ごめんね、大丈夫?」  今だに無反応の彼に先程の事故で打ちどころが悪かったのか、不安になり弱々しい声色で聞いてみても、固まったまま。  無反応続きだと流石の鴨上もイラついた。  目の前の彼に力強くデコピンをする。  突然の痛覚が走り、「痛ッッてぇ!」と反射的に口から悲痛を吐き出す嵐。おでこを抑えながら目の前の加害者を睨んだ。 「て……てめぇ、何しやがんだッ!? 俺が何したってんだよ!!」 「心配して声をかけても、君が無反応だったからだよ!でも、それだけ元気なら問題無いわね。もう!心配して損したわ」  最後は柔らかい笑顔で、言い放った彼女。嵐は何とも言えない込み上がる熱い気持ちになり、無意識に視線を逸らしてしまう。 「ところで、私を引き留めたけど何か用??」  この質問に本来の目的を思い出す嵐。 「あ……えと、さっきの話し聞いてなかったから、もう一回教えて」  その言葉を耳にした鴨上。彼のマイペースさにうんざりとした深い溜息を吐いた。  他の教師だったら、怒りを買い生徒指導室行きになる。ここで教えなかったら〈先程の内容〉が実行できなくなる。  面倒だが自身の楽しみの一部が無くなってしまう為、再度説明に入る。 「次回、私が作った数学の抜き打ちテストで満点取れたら、【此処に来た理由】を教えてあげる。 ただし、学校に来たからには授業には出席する事が条件。以上」 「………それだけ?」 「それだけよ。 私はそろそろ戻るから、君も支度して教室に戻りなさいよ。あと……、さっき助けてくれてありがとうね。おかげで怪我しなかったわ」  向日葵のような笑顔で要件を伝えた後、彼の頭を大型犬を褒めるようにわしゃわしゃと撫でた。その笑顔と言動に、またしても何とも言えない気持ちになった嵐は自身の原因不明の感情に困惑した。ふと、彼女の手が止まる。 「あ……!ねぇ、見て。雪だわ」  見上げると、青空が広がっている空から雪が一つ、二つと舞い降りていた。 「珍しいわね!晴天時の雪なんて。そんなレアな天候に出会えるなんて、私達ってラッキーね!嵐くん」 「……ん」 「こういう時は、素直に『そうだね、』と言えば良いのよ。 それじゃ、また授業でね」  今だに名前の分からない気持ちになっている彼を置いて、ヒール音を立てながらその場を立ち去った。  そんな彼女の後ろ姿を見送って、数秒経ってから重大さに気づく。 (ーー暫くサボれなくなっちまった)  嵐は先程の何とも言えない気持ちを疑問に持ったまま、後を追うように重い腰を上げた。  そんな晴天時、雪の空の下。午前十一時三十分にて。
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