サボり魔と彼女。

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  「おい、アンタこんな田舎に何しに……」 「そういえばさ、嵐君。 この間の数学の抜き打ちテストどうだった?」 「………はァ”!?」  先程のアンニュイな雰囲気と真逆に変わった彼女。突然、話しを遮られただけでは無く話題を変えられイラついた嵐は思わず、汚い言葉を一部吐き出してしまう。 「あの抜き打ちテストの問題作ったの私なのよね!けっこう良い出来だったでしょーー!!」 「ちょッ!テメェッッ!!今、俺が質問をして……」 「そう!今回は特に、最後から二番目の問題がね。 全員が解けないように、応用問題として……こっそりと大学レベルの難しい問題をぶち込んでやったのよ〜〜。ぷぷぷッッ!!」  そんな事お構い無しに会話を続ける鴨上。  このままだと聞きたかった内容が聞けないまま終了されると焦った嵐は、更に苛つき暴言を吐こうとするが更に言葉を遮れてしまう。  しかもその後、性格が歪んでいるのでは無いか、と思うくらいの発言をした彼女。ケラケラと悪戯っ子のように笑う姿に、呆気に取られてしまう始末。  それでも彼女は今でもマイペースに言葉を続けた。だが、ここで声のトーンが1オクターブ下がる。 「……と思ったのにも関わらず、こっそりとぶち込んだ問題を解いたヤツが一人いるだよね」 「あ……そう。良かったな。じゃ、次は俺の話しの番。アンタ、何で此処に……」 「……それを赤ペンで丸つけながら思わず舌打ちしまったわよ」  強気で質問しようと言葉にする彼。だが、相手は聞く耳持たずのまま。  更に、教師としてあり得ない発言をする彼女。ここまでくると面倒臭さが勝ち沈黙し始めた。  同時に嫌な予感もし始めた嵐。逃げようと立ち上がろうとした、その時。  いきなり、左手首を強く掴まれてしまった。  予想外の展開に、彼の頰に冷や汗が一筋流れる。 「あのさぁ〜。本当………、何様なの?君。 採点の時にざまぁみやがれ!ガキんコ共がッッ!!って楽しみにしてたのが台無ししてくれてさッ!!! どうしてくれるのよ!?私の娯楽をさ!!」 「ーーイヤッッ!!知らねーし!!!俺、関係ねぇーじゃん!!!」  とんでもない理不尽なクレームに、流石の嵐もキレた。そんな彼に、更に理不尽な言い分が襲う。 「関係あるのッ!!関係無かったら、この場で話題出さないから!! 君さぁー。基礎問題を、ほぼ空欄にするなら大学レベルの問題も空欄にしなさいよ!!応用問題だけ全問正解にするなんて、嫌がらせにも程があるわよ。 性格、歪んでんじゃないのッッ!!?」 「どういう風に、問題を解こうが俺の勝手だろッッ!!というか、それ教員としてその発言はマズいだろッ!! アンタ、大人としてそんな事を言って恥ずかしくねえのッッ!? 生徒は、てめぇらの嫌がらせ材料じゃねぇ!!」 「失礼ね!私のは、嫌がらせじゃないわよッ!!ただ、生徒達の反応を観て楽しみたいだけなのッ!文句あるッッ!?」 「その発言事態、教師としてアウトだろ……。 じゃなくて、俺はアンタに聞きてぇ事があんだよ!!」 「え……、何?聞きたい事……?? やだぁ!!最初に言ってよ〜。もしかして、恋バナ?」 「ちげーから!何で恋バナになるんだよ!?馬鹿なのか!!おま……」 「えッ!?まさかッッ……!!私の個人連絡先を教えろって事??こ……、困るわ。 私、付き合う男性は年下でも18歳以上って決まって……」 「人の話し聞けよ!!何?酉の一族って馬鹿ばかりなのか!!?頬を赤らめてんじゃねーよ、妄想痛女」 「……冗談に決まってるじゃないの。可愛く無いなぁ……、君は。 そんなツンツンしてたら、彼女ができたとしても捨てられちゃうわよ。あと、他の一族の罵倒発言は私以外ではダメよ。今後、君の人生に影響が出るからね。分かった? あと、此処では〈鴨上先生〉って呼びなさい。それとも、皆んなみたいに〈やっちゃん先生〉でも良いわよ〜♬」 「……チッ!」  白旗を上げた瞬間だった。  昨日の妹から訳分からない説教に続けて、今日は目の前の教員から理不尽な理由でクレームを言われる始末。  あまりにも妹よりも倍返しでくるマシンガントークに、精神的に疲労困憊してしまった彼。沈黙にした方が良いと思考を切り替え、舌打ちのみで終了する。  嵐の敗北した様子に満足した彼女。腕を組んで「フフン♬」と笑顔のドヤ顔で、不貞寝をする嵐の顔を見下ろす。  その言動を黙って傍観していた嵐。 (コイツ、大人気ねぇ!)と心の中でドン引きしながらも、どうやって相手から情報を引き出そうか再度策を練る。  彼がそんな思案していると露知らずの鴨上はここでピンッ!、と何かを閃き隣にいる彼との距離を縮める。  その距離、ーーお互いの鼻がぶつかる寸前。  お互いの視線が、強く絡み合う。  相手の顔が映し出されている瞳の奥。  相手の吐息と、ほのかな体温が感じる中。  そしてお互いの香りが、鼻を掠める事ができるくらいの距離内。  彼女から香る、〈ハニーレモン〉が鼻を掠め、脳内へダイレクトに貫き甘い眩暈がおきる。  相手が今何か話しているが、彼にとってそれどころでは無かった。視界から入ってくる彼女の桜色の唇の美しさに、釘付けになってしまっている彼。  脳内が、じん……と痺れ、胸の奥が熱くなっていく感覚が広がっていく。   (ーーずっと……、このまま続けば良いのに)  人生で初めて感じた、一時だった。  
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