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発砲音が鳴り響いた瞬間、銀は瞬時に放たれた弾を横に跳び回避。
咄嗟に撃たれた方向を見ると、猟銃を構えた青年を確認できた。
目を開き、猟銃を構えた状態で固まっている。
侵入者を見つけた銀は、地面を強く蹴り駆け出す。
青年は気を取り直し、猟銃を構えもう一度発砲。だが、簡単に避けられる。
目の前まで銀を近づかせてしまい、悲鳴を上げ逃げ出そうとするが、絶対に逃がさないというように覆い被さった。
視界が一瞬暗くなったかと思うと、背年は地面に背中から転ばされる。
背中の痛みに顔を歪めつつ起き上がると、銀が自身の猟銃を咥え見下ろしていた。
武器を失い、恐怖と困惑などで頭を覆い尽くされた青年は、恥など全て捨て、逃げ出した。
銀は追いかけることはせず、猟銃を咥えながら青年が完全にいなくなるのを待つ。
辺りが静寂に包まれると、銀は安堵するように体に入っていた力を抜き、銀籠へと向き直す。
「っ、銀籠!!」
銀籠が地面に座り込み、自身の体を抱え震えている。
猟銃をその場に落とし、銀は震えている銀籠へと駆け寄った。
「大丈夫だ、人間はもう遠くへと行ったぞ」
安心させるように言うが、銀籠の震えは止まらず自身の体を摩り続ける。
声をかけるだけでは、今の銀籠を落ち着かせることはできない。
銀は顔を俯かせている銀籠の頬をなめてあげた。
すると、やっと正気に戻った銀籠は真っ青の顔を上げ、銀を見る。
「…………っ!! 父上!! 怪我はないか!? 苦しいところや痛いところなどはないか!?」
銀の姿を確認すると、過剰なまでに銀籠は銀を心配し始める。
乱れている銀籠に大丈夫という意味も込め、小さく頷いた。
落ち着きを取り戻し始めた銀籠は、本当に怪我をしていないか確認すると、狼姿の銀に抱き着き、何度も何度も震える声で謝った。
「ごめんなさい、ごめんなさい」
「大丈夫じゃ、銀籠」
銀籠が落ち着くまで、銀は何度も「大丈夫」と伝え続けた。
銀籠は、人を見ただけで体が震え、動けなくなる、人間恐怖症。
過去、人によって悲しい別れを味わい、人によって強い恐怖と怒りを知った銀籠は、人と関わるとろくなことにならない。
そう考えるようになり、人を見るだけで過去の記憶が頭に蘇り、拒絶反応を起こしてしまう。
今はもう、銀だけが自分の味方で、絶対に離れていかないし、自分を一人はしないと考えている。
銀はそれを理解しているため、日々少しでも共に過ごせるようにしていた。
だが、自分もいつ、何があるかわからない。
”もしも”の時、銀籠が取り乱さず、後追いしないように。何か手を打たなければということも同時に考えていた。
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