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4 三年後、マグレを待ちながら
三十三歳の冬、サヤカは自宅である古アパートのベッドの上で、タブレット端末と向き合っていた。三年前の冬と同じく、サヤカは清掃会社で働き、余暇には絵本を創っている。新人賞は突破していない。マグレはまだおとずれていない。
ふと窓の外を見ると深夜十二時の真っ黒な景色を、たくさんの白い花びらのようなものが飾っていた。
「あ、雪」
あの日みたいなふわふわとした粉雪だった。風はない。粉雪は音もなく、空から地面に落下していく。
サヤカはその雪をみて、三年前のあの日のことを思い出す。
あの人は今も、マグレを待ってくれているだろうか?
サヤカは雪が舞う外景を眺めながら、そんなことを考える。
この世界のどこかに自分が起こすマグレを待っている人がいる。それだけで、一人ではないような感じがする。前よりも、生きていくのがほんのすこしだけ楽しくなったような気がする。そう考えると、彼だけでなく、自分も雪に助けられたんじゃないか、という気持ちになる。
だからサヤカは雪が好きだ。今日みたいな雪の日には、あの無人駅で発された彼の声がありありと蘇る。
「マグレを待ちながら」
サヤカは一人、声に出してみる。そして再び、タブレット端末に絵を描き始める。
〈了〉
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