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【8】Side:シュール【チベスナギツネの嫁入り】
シュールの名はシュールと言います。チベットスナギツネ獣人……略してチベスナ獣人のシュールは哦性でした。
しかしシュールはどうにも、哦性らしい顔つきではないようで。
縁談もなかなか纏まらず、所謂行き遅れと言われるような年齢になってしまいました。
オメガと聞けば、求めてくださる欸性もいるにはおります。
しかしシュールは……抱けないそうなのです。
爸媽は相手の欸性に見る目がないだけと言ってくださいますし、哥哥たちもずっと実家にいればいいと言ってくださいます。
しかし哦性と言う身の上……発情期のたびにもの寂しい思いもあるのです。
爸爸にも、哥哥のような欸性の番を羨ましくも思ってしまう。
――――そんな悶々とした適齢期を過ごしていた時でした。
「神子さま……ですか」
「そうなの。シュールちゃん」
同じ哦性の媽媽が言うには何でも、都にお住まいの神子さまが、生涯を誓い合ったパートナーがおらず、ちゃんと自身に嫁ぎたいというもの、あまりものでもいいから哦性の嫁なら可と言う条件で募集しているとのことでした。
あまりもの……ですか。それは確かにシュールにぴったりな募集要項です。
そして神子さまと言えば高位の欸性。そんなお方が哦性の嫁を募集だなどと……嫁ぎたい哦性ならたくさんいるでしょうに……いや、適齢期ならば、ほとんどの哦性が生涯を誓い合った欸性がいるでしょうから。どうしてか神子さまは生涯を誓い合う哦性と出会えなかったと言うことでしょうか。
「どうしてもお嫁さんが見付からないみたいなの。だから是非とも未婚の哦性に来て欲しいんですって」
こんな辺境にまで報せを持ってくるとは……相当見付けるのに苦労をしているご様子。
「旅費はあちらの全額支給ですって」
「……それなら」
家族に迷惑もかけずに済みます。
あと、こんなシュールでも少しだけ……期待してもいいのでしょうか。
お返事をして3日も経たないうちに、都から使いが来て、シュールはあれよあれよと都の神殿へと送り届けられました。
そして何故か入念なカウンセリングののち、神子さまへの面会……なのですがこの赤い衣装……都の結婚式の衣装に似ていませんか……?故郷ではまた違った衣装なのですが。
「シュールさま!是非ともうちの神子さまをお願いいたします!ちょっとノリはおかしいですが、哦性ちゃんファーストなイイコですので!!」
熊猫獣人の神官に何故か熱弁され、いざ、シュールは神子さまに面会を果たしました。
――――神子さまは……。
雪色の毛並みに金色の月のような瞳を持つ美麗なキツネ獣人でした。やはり都のキツネ獣人は……美しい……のですね。
チベスナ獣人は、キツネ獣人とは違いがっかりされることが多いのですが、なるほど。
神子さまのような美麗なキツネ獣人やそれに準ずるかわいさのキツネ獣人を求めているのですね……。
シュールは……こんなにも美しいキツネ獣人の欸性さまには……やはり相応しくないでしょうか……。
「俺のことは知っているか?君の旦那になる、雪月だ」
はい、神子さまです。でも……旦那?やはりこの衣装は花嫁衣装……。
「はい。わたくしはシュールです」
しかし、今さら後に退けば、神子さまの面子を潰してしまうかもしれない。いざベールをとれば「やはりなし」と言われるかもしれませんが。
「俺と番うのには、不満はないか?」
「はい」
シュールには……特にありませんが。
お相手は神子さまなのですから、こちらから拒むのは気が退けます。
「では、行こうか」
「はい」
神子さまに続き、シュールもてくてくとついて行きます。
用意されていた床は……やはりと言うか何と言うか。初夜用の床でしょう。
「では、早速」
床に上がれば、神子さまがシュールの顔を覆うベールを取り去ります。
そして……固まっておられる。やはり……シュールは……。
「シュール」
「はい、神子さま」
「いや、雪月で、いいよ?」
「はい、雪月さま」
そう仰るのでしたら、遠慮なく。哦性は時に度胸なのです。シュールも立派な哦性。我媽のように強くありませんと。
「あの、あのさ、え~と」
たとえ雪月さまもシュールを気に入らないと仰られても。
「シュールは、女の子だよな?」
……はい?
「シュールは男の子ですが」
「そ、そうか、男の子か」
女性の哦性を望まれていたのでしょうか……。
「男の子なシュールは抱けませんか」
それならば、仕方がない。旅費は出してくれるらしいので、そそくさと故郷に……。
「いや、そんなことは」
え……ないのですか……?
「シュール、お前を抱くぞ」
マジなのですか?
「はい、雪月さま」
しかしもう後には退けまい。
「本当に、いいのか。俺は最高にシュールにムラムラしている」
シュールに……ムラムラ?むしろ萎えると言われたことの方が多いのです。
「このシュールにですか。変態ですね。マニアックですね」
今までの欸性にはなかった反応です。この方は本当に……シュールの番となってくださるのでしょうか……?
「そ、そう、ダネ」
そう頷いた雪月さまに……シュールは抱かれました。雪月さまはお優しい……初めてのシュールを大切に、そして優しく抱いてくださいました。
思わずへなへなに鳴いてしまったのですが、それもいいと雪月さまは微笑んでくださいます。
そしてそのまま発情期に移行し、シュールは雪月さまに項を噛んで頂き、番になったのです。
――――今でも、夢のよう。
「シュールにも……嫁ぎ先が見付かっただなんて」
そしてもう、シュールは雪月さまの夫なのだ。
こんなシュールを日々かわいいと叫び、シュールがいないと死んでしまうと駄々をこねる雪月さま。
「シュールたぁん、シュールたんのお膝枕ぁ~~」
今日もお務めを終えられた雪月さまが、シュールの姿を見るなり飛んで来ました。
「シュールのお膝枕ですか?」
「うんうん、これが最高~~」
そしてシュールのお膝に頭を乗っけてすやすやとまどろむ雪月さま。
横にふわりとした白い塊が見えたかと思いきや……あ、いつもは1本だけのふわふわおしっぽが……9本に増えていらっしゃいます。
雪月さまはよく、シュール萌えを起こすとおしっぽが出ると仰います。熊猫獣人の呂嵐……雪月さまは何故か嵐嵐と呼んでおりますが……によりますと正確には雪月さまの感情によりけり……なのだそうですが。
しかし萌えるのもその一端と考えれば、少し嬉しくもあります。
1本引き寄せて、もふもふして差し上げます。雪月さまのふわふわおしっぽは……実はシュールのお気に入りだったりもするのです。
もふもふ……
なでなで……
もふもふ……
なでなで……
雪月さまのおしっぽを堪能していれば……お膝の上の雪月さまもどこか嬉しそうにクスリと微笑んだのが分かりました。
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