消しゴム

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あれから、三ヶ月が経った。 私の病状は、思ったよりも早く進行していた。 薬が合っていないのか……。 どうなのか。 まだ、先生は判断が出来ないと言った。 私は、その事もあり会社を退職した。 葛城君とのあの日の事も薄れ始めている。 私には、好都合だ。 ずっと、ずっと……。 葛城君を消す方法だけを考えていたのだから……。 ゆっくりだけど、確実に葛城君(あなた)を消す方法を見つけられた。 ずっと、あなたを消したかった。 頭の中に大きな消しゴムを入れて、あなたの記憶だけを消したかった。 私の望みは必ず叶う。 それは、近い将来で……。 私の中から、あなたは消える。 もちろん、あなただけじゃなく。 全てのものが……。 「神原(かんばら)さん、トイレはここじゃないですよ。ちゃんと奥まで入って行かないと行けないんですよ」 「はい」 「怒ってるわけじゃないですよ。出来なかったら、ナースコールしましょうね。わかりました?」 「はい」 近い将来、私もあんな風になるのだろうか? 「神原さん、また怒られてるよ」 「どうせ、明日には忘れちゃうのにさ。末広さんって仕事熱心だよね」 「確かに、確かに。ここは、そこまで熱意かけたって仕方ない病棟なのにね」 「わかる、わかる」 私もそうなったら、影でこうやって言われるんだろう。 忘れていったとしても、末広さんって看護師さんに介抱されたい。 熱意をかけて欲しい。 だって、人間だもん。 お会計を済ませてから病院を出る。 空は、真っ青に染み渡っていて綺麗だ。 葛城君。 私は、あなたを消すから。 だから、心配しないで。 美佐と幸せになってね。 「バイバイ、葛城君」 私があなたを消した理由は、病気だったから。 記憶を失う速度が速い私は、美佐とももう会っていない。 美佐が知っているマンションも引っ越した。 そして、実家にも帰っていない。 もう少しだけ、一人で乗り越えたい。 私は、今日も前だけを見て歩いていく。 いつか、頭の中の全てがなくなるその日まで……。
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