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間違えたから、変になったから、汚かったから。そんな理由で僕達は消されるんだ。上と下が、やいやい言っている。
「お前は、消えるべき存在だからな」
「そうだ、そうだ。お前は消されるんだ」
煩い。でも、僕が文句を言う権利はない。だって、自分でも分かるから。ここにいるべきじゃあないって。僕がいたら、邪魔になるって……。
「ん? おや、ここ間違えてるなぁ」
ああ、気づかれちゃった。僕を生み出してくれた人が、大きな独り言を漏らした。
そのせいで、周りが一斉に、僕の方を向く。見えない圧に押しつぶされそうで、僕はもう、消されちゃうんだ。
生み出してくれた人は僕を見つめて、ブツブツと小さく呟きだす。
「ふむ……周りから誰も認められなかった殺し屋の女の子が、一回だけ助けてくれた主人公と本気でぶつかり合って、死に際に主人公への愛情を自覚して『私が散ることが、貴方への愛情なのね……』と書こうとしたが、『哀情』と書いてしまったな……でも」
僕を見つめる瞳が、徐々に細められていく。それは、他の間違いが消されていく時と全く違う感じだった。
「この言葉、活かしたいな。よし、『私が散ることが、貴方への……』と区切って……この敵の哀しいけれど美しい愛という描写を膨らませよう! 洒落てるなあ!」
いやぁ、誤字を生み出して良かった! 満面の笑みで消しゴムを取ったその人に、僕は震えるあまり、歪みそうになった。
僕は、役に立っていたんだ。いて、良かったんだ。
あたたかさ、というものを初めて実感した僕は、消しゴムで優しく消されたのだった。
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