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後輩(♂)とバレンタインケーキを手作りしたら恋人とのハッピーエンドが待っていたオレの話
「今年のチョコどれ買おっかな~気になるの色々出てるんだよね~」
「とりあえずマロゾフのアンバサダーは鉄板じゃないっすか? 去年はギャラクシーチョコとか売れてましたけど、今年はどうなんすかね?」
「しっかしスケさんもレンレンも意識たっけぇよなー! オレっちなんか、去年かーちゃんから貰ったのコアラの宴だったぜ!? コアラの宴はうめぇからいいけどよ!」
キラッキラした表紙の雑誌を開いて、しかめっ面してる龍の横から雑誌を覗き込んだ黎斗が質問を繰り出す。そして太鳳の笑い声が部屋ん中に響いた。
龍がオレ目当てに保健室に通うようになって騒がしくなったのが、最近はさらに騒がしくなった。つーのも、龍にくっついて他の奴らも出入りするようになったからだ。
昼休み──倭斗が作った弁当をゆっくり食える唯一の時間。オレにとって一日の中で一番楽しみかつ貴重なその時間が、毎日やかましくてたまんねぇ。割り箸を握りしめると『ミシッ』と嫌な音が鳴る。
「あ、これ? これはあげるほうじゃなくって自分のために買うやつ! マイチョコって言ってね、自分に対してちょっと高級なチョコを買うってのがここ数年のブームなんだよ。オレだって家族にあげるのはジーナとかメルティウインクとかだもん」
龍が笑いながら付け足したセリフを聞いた太鳳が、
「マイチョコ!? はー! そんなのがあるとかちっとも知らなかったぜ! だってよ、別にバレンタインじゃなくても買って食えばいいだけじゃん!?」
素っ頓狂な声をあげる。
……ンとに、お前はいちいちうるせぇ野郎だな。その声のデカさはどうにかなんねぇのか。
「それはそうだけど、バレンタインにしか出てこない特別なチョコってのがあるわけよ。そういうのを、ちょっとしたご褒美に買うのが楽しいってワケ!」
「特別あげたい相手がいるなら別っすけど、やっぱ自分が食べたいっすもんね」
「ねー、そうだよねー!」
黎斗と龍が顔を見合わせて頷き合っている。黎斗も甘いモンが好きらしく、ちょくちょく甘いモンを食ってる龍とは、やれどこのコンビニスイーツがウマいだのファミレスの限定パフェがどうのと、保健室でもよく喋くってる。
コンビニなんて量もたいして多くねぇし高ぇしなにがいいんだか。
いや……具がたっぷり詰まった肉まんを安く売ってるトコだけは褒めてやってもいい。あれはウマい。
空っぽになった弁当箱の蓋を閉めて、購買で買ってきた惣菜パンをビニール袋から取り出す。
今日は日替わりでピザパンが安い日だった。いつもは惣菜パンの中でも安くて量のある焼きそばパンやマヨコーンパンを買うが、ピザパンが買える日はピザパンを買う。安くてデカくて腹に溜まる、こんないいメシはないからな。
ふと、中がからっぽになったマグカップが目に入る。
(コーヒー淹れるか……)
いまだにチョコのことであーでもこーでもと言い合っている龍たちを尻目に、カップを持って席を立つ。
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