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 ユッカ国のコオは若干十九歳で国家薬草師二級の免許を取得した。薬草師は読んで字の如く、薬草の知識を持ち配合して他人へ処方する者のことを指す。国家試験の階級は五段階に分かれていて、二級は一級保持者が用意した薬草を調合することが許されている。そして一級は薬草の採取から調合、患者への処方まですべて一人で行うことが許されているが、一級にもなるとなかなか狭き門で合格率がかなり低くなってしまうのだ。  両親が薬草師であるコオの師匠は兄のマキ。一級の資格を持つ彼に教えてもらいながら、二級の免許を取得したのは五年前。今は薬草学を研究しながらコオは一級取得を目指していた。そしてこの夏、コオはまだ目にしたことのない、希少価値のある薬草【クスコス】が自生しているパキ国のココット村にある密林を訪れることにしたのだ。 「あっちー……」  密林を歩きながら茹だるような暑さに、コオは何度もその言葉を繰り返している。ココット村に来てようやく一週間が経過した。密林に近い村にある宿で寝泊まりをし、日中は薬草探し。暑いとは知っていたが、想像を超えていた。 「今日はまだマシです。さあ頑張って」  コオの前を歩いていたターバンを巻いた青年が立ち止まり後ろを振り向くとそう言った。広大な敷地の密林なので、迷ってしまう恐れや危険な場所、また禁足地があるので一人では歩くことはできない。そのため現地ガイドを雇ったのだ。それがこの青年、ワスカだ。コオよりも少し身長が高く体つきも逞しい。よく焼けた肌に濃ゆい眉。どこから見ても頼りがいのあると言った風貌だ。対してコオは肌の色が白く、華奢だ。今回のように外で活動することも少なくないのだが、肌は赤くなってしまい褐色の肌にはならない。そんな正反対のふたりだは性格も同様だ。真面目で少し頑固なワスカに対して好奇心旺盛なコオ。勝手に進もうとするコオに何度ワスカが叱ったから分からない。雇い主とて容赦ないワスカの性格に、コオは好印象を持っていた。国家二級薬草師だからとヘラヘラとお膳立てをするガイドよりよっぽどましだ。 「なー、クスコス本当に自生してる?」  お目当てのクスコスを探して六日目。希少な薬草であるから探し出すのはなかなか時間かかるだろうと想定していたのだが、一向に見つからない。ちょうど訪れたこの時期もいけなかったようだ。クスコスは暑い時期になると、特徴的な紫の実を落とし、他の植物との見分けがつかなくなるからだ。 「ありますよ。ただアンタの運が悪いだけ」 「はいはい。んもー、俺が雇い主だって覚えてる?」  ワスカはそれに答えず再び前を向き歩き始めた。
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