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直ぐに薄くモザイクがかかった動画は止められた。
ざわめく会場に照明が照らされる。
「酷いっ!最低!何なのこれっ」
結婚相手の彼女に罵られ、罵倒された。
彼女はお色直しで着ているドレスの裾を上げて、泣きながら会場を出て行った。
追いかける事も、声をかける事も出来ず、俺はその場に立ち尽くす。
当然、結婚式はめちゃくちゃになった。
皆から好奇な目で見られ、罵詈雑言の嵐なのは当たり前だと受け入れ、ひたすら頭(こうべ)を垂れていた。桐斗も会場を顔面蒼白で出て行った。
ウェディングプランナーの女性に促され俺も会場から出て行く。
彰は無表情で、じっと俺を見据えていた。
あの動画は彰が撮ったのか?
桐斗を奪ってしまったから?
そこまで追い詰めてしまったのは俺なのか?
さぞかし俺を憎んでいる事だろう。
ごめん…、ごめんなさい。彰。
吉日に拘り、入籍前だった事に少しだけ救われた。彼女の籍が穢れなくて済んだから。
これからも自慢の息子、兄、そして、今度は自慢の夫になるはずだった。
それなのに、どうしようもない男に成り変わった。
慰謝料として全てを彼女に渡した。
会社を辞め、家にも帰れず、彰の傍さえも居られない。
泥の中へ踏み入れ ズブズブと
泥の底に落ちていく感覚―――…
それでも
色々と考え、いつも辿り着くのは彰の笑顔だった。
***
義兄さんが姿を消して数年後。
倒れて病院に運ばれたという連絡が入った。
財布の中に古くボロボロになっていた俺の携帯番号のメモが入っていたらしく、病院から電話がかかってきた。
「久しぶりだね。義兄さん。いや、夏生……。やっと見付けた。
ずっと探し回っていたんだよ?」
病室のベッドで眠る夏生の頬をそっと撫でる。
あの頃より痩せた。倒れた原因は栄養失調。ちゃんと食べていないのか?住む所はあるのか?
財布の中の所持金は千円札が3枚と小銭が何枚かあるだけ。
平日の昼過ぎにTシャツとジーンズのラフな格好。身体にはアザがあったという。
目が覚めて戸惑う夏生を宥めて、
取り敢えずタクシーで俺の住むマンションに連れて帰る。
「コーヒーでいい?」
言うと同時にソファに座るように促す。
夏生の隣に座り、コーヒーを手渡した。
お互いの近況をポツリ、ポツリと話をした。
そして、夏生は定職にも就かず、身体を売ってその日暮らしの生活をしていたと重い口で告げる。
「ごめん。俺は汚いだろう?彰の近況がわかって良かった。そろそろ帰るよ」
ソファから立ち上がる夏生の腕を掴み、もう1度座らせる。
「帰るってどこに?行く宛もないのに?」
「―――そ、それは……」
「それに、もう2度とこのマンションから出られないのに?やっと見付けたのに手離すはずないでしょう?」
夏生をソファに押し倒す。
「―――っ!何言ってるんだ?避けろよ」
「安心して。このマンションは防音になってるから、いくらでも声をあげても大丈夫だよ?
ずっと、恋人同士みたいに、愛し愛されたいって願っていたけど、諦めるよ。
あの時、俺に頼って貰いたかったから泥の底に沈めたのに。居なくなるんだもんなぁ……。誤算だったよ。
生ぬるいことしてまた逃げられないように、足枷を付けて上げるよ。
どんな手段を使っても離さないから。覚悟してよ?」
「やめろっ!俺たちは義理とはいえ兄弟なんだよ?俺を閉じ込めてどうするつもり?」
「決まってるでしょう?誰にも邪魔されずに、俺だけの夏生にするんだ」
「―――俺は汚い。穢れてる…」
「汚くない。穢れてもいない。綺麗なままだ。気になるなら俺が上書きする」
「――――後悔 するぞ…?」
「もうとっくの昔に後悔してるよ。もっと早く俺のものにすれば良かったって。
俺を受け入れて。どこにも行かないで夏生。
好きなんだ。ずっと、ずっと、好きでどうしようもないんだ。
だから、俺と一緒に泥の中に沈んで?2人でここで生きていこう」
ソファに横たわる夏生にゆっくりと唇を重ねる――――…
夏生の甘い吐息
夏生の匂い
夏生の滑らかな肌に触れる
唇を這わせ夏生を味わう
「あっ、やめ…」
「本当に?こんなになっているのに?やめて欲しくないくせに」
夏生の狭いソコが俺を受け入れた
ゆっくりと浅い所を焦らすように
突いてから、ぐりぐりと腰を回し、奥を押し拓く。
そして引いて、思いきり腰を打ち付ける。
突き入れると、夏生の腰が跳ねて「ああっ!」と声を漏らす。
もっと もっと
俺を受け入れて―――…
もっと もっと
俺の知らない夏生を見せて―――
無我夢中で夏生を堪能した。
***
ああ、これでやっと彰は俺のものになった。
俺はちゃんと拒否したよ?
逃げて隠れていたんだ。
穢れたこの身体でも良いと言って上書きすると言ったのは彰だ。
俺が身体を離そうとすれば、強い力で抱きしめられ、キスをされた。
大きくて長いソレがどこまで入るのかと怖くなるくらいまで、俺の奥深くを入り込む。
「ん……っ」
彰と視線が交わる。彰は僅かに微笑むが、その瞳は情欲に濡れていた。
「好きだ、夏生」
だったら
もう遠慮はいらないね―――?
ずっと彰の頭の中が俺でいっぱいにしてあげる。
身体だって、俺なしではいられないようにしてあげる。
「愛してる、彰…」
ねぇ?彰――――…。
藻掻いても、藻掻いても
泥の中に引摺り貶したのはどちらの方だろうね――――?
―― END ――
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