消せない記憶

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厳かに結婚式が始まった――…。 兄の隣には美しい花嫁。 2人でにこやかに挨拶をしている。 俺の隣には、にこやかに義兄を祝福する両親。 義兄の友人、会社関係の人もたくさん祝福に来ていた。 幼なじみの桐斗が近くの違うテーブルで祝福をしている。 俺と桐斗は目があった。 俺は何食わぬ顔でニッコリと頬笑む。 後で別れ話をされるとも知らずに、桐斗は頬笑み返した。 浮気してたくせに…。 『夏生 好きだ』と言って腰を振っていたくせに、と心の中で悪態を付く。 でも今日でおしまいだ。そう思うとまた笑ってしまう。 披露宴も終盤を迎えた。 最後の両親への挨拶の時に、スクリーンには幼少期からの思い出の写真が撮されている。 そして、一旦 映像が途切れた。 暫くしてから、義兄と桐斗とのセックスシーンの動画が流れ、会場は騒然となった。 2人は、いや新婦も皆、真っ青になっていた。 俺1人が微笑んで動画を観てる。 義兄さんが悪いんだよ―――…? 俺は出会った時からずっと 義兄さんが好きだった。 俺の告白を聞いて、 『義理とはいえ兄弟だから』 と言って俺を拒んだ癖に…。 1年前に結婚がわかって、諦める為に桐斗と付き合った。 それなのに―――… 結婚するくせに前の日に 桐斗とセックスなんかして…。 仮にも桐斗は俺の恋人だ。 桐斗を好きだなんて許せるはずないよね? 結婚式をしたけど、直ぐに離婚になるよね? 恥ずかしくて会社に居られないよね? ああ、そうだ。 桐斗だって会社に居られないでしょう? だって、桐斗は夏生と同じ会社なんだから――――…。 今度こそ、俺を受け入れてよ? ねぇ、義兄さん。いや、夏生。 俺1人だけの記憶だったけど、 皆と共有した消えない記憶はどう? 2人にとって消したい記憶だとしても、スマホって便利だよね? 写真も、動画も撮れて保存もできて、ネットにも流せるんだから。 ほら、写メ撮ってる奴らがいるよ。 恥ずかしくて外に出られないでしょう? ねぇ、夏生――――… 俺が大切に、大切に、囲ってあげるから 俺に全てを委ねなよ――――… ――― END ―――
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