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「時代の移り変わりとともに廃れていきました。令和になった時、市の方針でこの行事は中止となりました。動物愛護団体から抗議がくるらしくて」
「そうですか」
この地にまつわる餓鬼の伝説。その話を聞きに来た青年に小さな寺の若い住職はこの地の伝説を話していた。
つい最近餓鬼にまつわる資料が見つかった。まるで本物の餓鬼がいたかのような話に、オカルトマニアなどが一時期殺到した。ようやく落ち着いてきたがこうしてまた一人、話を聞きに来たのである。
「ありがとうございました」
「おや、ご質問はよろしいかな?」
今まで訪ねてきた者達は、ネットにあげて盛り上がるネタにしたくてあれやこれやと聞いてきた。そういった者たちに丁寧に対応してきたので、彼が何も聞かないのは意外だったのだ。
「俺が知りたいのはその鬼がどうなったかということなんですけどね。死んだのかまだ生きているのか。そこが語り継がれていないのであれば特に聞く事はありません」
あっさりとそう言って立ち上がる。しかし彼は小さく笑った。
「詳細を見てきたかのように詳しく話してくださって、どうも」
住職の袈裟の隙間から微かに見える、引っ掻いたような傷跡を見ながら。その言葉に住職は無言だ。
「では」
そう言って青年は寺を後にした。
「面白い話は聞けた?」
寺の入り口で待っていた友人。面白そうだと一緒に鬼伝説があるこの地に来たのだが、お前はここで待っていたほうがいいと言われてずっとここにいた。
「興味深い話は聞けた。面白くはないかな、普通」
「ふうん?」
「行くか。住職殿の小腹が空く前に」
「住職殿、ねえ? なるほど。行こうか」
餓鬼伝説の資料が見つかってからというもの、行方不明者が増えてきたこの地。貴重な資料は寺の管理の可能性は高い。それが突然見つかって人が押し寄せたのなら。
おやつをなくされて、腹が減ってしまったのだろう。
「やっぱりさ。風習って大事だよ。勝手に止めるもんじゃない」
「そうだね。風習復活してもどうにもならないかな、これは。ここに近寄るのやめとこう」
「……。手強い相手もいるものだ。さて、腹が減ったな。今度の狩りこそヘマをしないようにしないと」
もう、猪程度では我慢ができないのだから。
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