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「妖精なら、背中に透き通った綺麗な羽があるはずだろ」
「おうよ、あるわいな。見せたろか?」そう言うと、オッサンは体にピッタリした青いシャツをまくりあげて背中を見せた。
あった!背中の真ん中あたりに、小さくて艶のある茶色の羽が付いている。
「うへー!なんか…ゴキブリみたいな…」思わず呟いた。
「あ、お前、人の身体的特徴をバカにするんか?それナントカハラスメントやないか!」
「ごめん」俺は素直に謝った。
「しかしさー、どうして関西弁なんだよ」
「この前までナニワ支部におったからな。昨日こっちに配属されてん」
オッサンは張り切っている。
妖精って職業だったのか。
「明日からワシがお前を守ったるさかいに安心せえや」胸をドンと叩いて見せる。
果たして俺は安心していいのだろうか。
「しかし腹が減ったな。何ぞ買うてこいや」
「アホぬかせ。そんな金があったら苦労せんわい」
おっと、つられて俺まで関西弁になってしもたやないか。
「ほなお前、腹減ったらどないするねん」
「家で母ちゃんが作ったメシを食う」
「なんや!それ早う言わんかい!ほなお前の家に行こ、行こ!」
オッサンはそう言うと俺の腕を引っ張る。
「え?オッサン、俺の家に来るわけ?」
「何ぞ都合悪いか?」
「いや、母ちゃんがビックリするし…」
「かめへん、かめへん。ワシお前以外の人間には見えへんさかい」と言うとさっさと歩きはじめた。俺は後ろをついて行く。
遅れ気味な俺を振り返って、オッサンは小さな目をパチクリさせた。
「お前、足引き摺っとるやないか。痛いんか?」と言うと、いきなり腕を伸ばして俺をおぶった。
オッサンの背中は氷のように冷たい、のではなくて、普通に暖かかった。ゴキブリみたいな羽が邪魔ではあったけれど。
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