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雪解け
「あ……若嶽丸さ」
「継母上。お追いなさるな」
怜常丸の言葉に馨馨は、視線を彷徨わせた。
「お座りください、馨馨様」
そして迷った末にその場に腰を下ろす。
「馨馨様。あなたが婿を取り、虹波氏の棟梁をその者に任せるのは、危険なのでは?」
私がそう言うと馨馨は目を丸くした。
「よく考えてみてください。虹波氏がまだ家を保てているのは、大湖首様が見逃してくれているからです。それは、虹波氏には大湖首様に逆らえるような力がないからでは?」
驚いた顔のままの馨馨に私は続ける。
「強い男がいない。強い家臣もいない。それが大湖首様が名家である虹波氏を見逃す理由ではないでしょうか?
そして、この手紙には貴女が怜常丸様の代わりに行なっている領池の経営は見事だと書かれています。貴女は大湖首様に見込まれているのですよ。他を頼るのはおやめください」
私がそう言うと、馨馨はふっと大きなため息を吐いた。
「継母上、約束します。この怜常丸まだまだ未熟者ですが、間違いなく貴女に頼られるような侍になりましょう。だからそれまで待っていてください」
「そうで、すか……怜常丸殿……此度の事、申し訳ありませんでした。私はただ、彼の方が愛したこの領を守りたくて……私一人では自信がなくて……」
「継母上のお気持ちはよくわかります。継母上が父上を愛していた事もよく。ですが、継母上はもっと自信を持ってください。継母上の手腕は大湖首様に認められるほどなのですよ」
怜常丸様が立ち上がり、馨馨様の手を取った。馨馨様が困ったように笑った。
「そうですね。これからは私も怜常丸殿を盛り立てていきます」
その時、外では積もった雪の溶ける音がしていた。
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