身を捨ててこそ浮かぶ瀬もあれ

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「ねえ、後どれくらいで着くの」 助手席の高原里奈(たかはらりな)が、ゆるくカールのかかった栗色の毛先をいじりながら運転席に座る阿久津慶介(あくつけいすけ)に聞く。 「そうだな、あと五時間くらいかな」 カーナビの表示を横目で見ながら阿久津は答える。 「早く着いても夜中のうちはゲレンデ使えないぜ。そもそも、現地にちょうど良く着くように出発してるんだから、慌てんなよ」 助手席の後ろ、僕の隣に座る沼田勝利(ぬまたかつとし)が巨体を揺らし、炭酸飲料の缶を片手に、お菓子を食べながら面倒くさそうに言う。  この車内の四人は同じ会社の同僚で、週末の休みを利用してスノーボードをする為に東北のスキー場に向かっている。 里奈を除く男三人は同期入社ということもあり毎年のように集まっている。入社して五年目だから、この集まりも五回目になる。 「そんな言い方しなくても良くない?なんか、雰囲気が暗い感じだったから話題作りしただけじゃん。私がしゃべらなかったら誰もしゃべらないじゃない。ねえ、松本(まつもと)君もなんか言ってやってよ」 後部座席にむけて上半身だけひねり、僕の方を見ながら里奈が微笑む。 本気で怒っているわけではないらしい。 「まあ、沼田は誰に対してもこんな感じだから気にしないで。沼田の上司もこいつの態度が悪いって愚痴ってたよ」 沼田に関わって気分を害した人にはいつもこう言うようにしている。 情報システム部に配属されている僕は、社内のパソコンや社内ネットワークのトラブル処理を行っている。その仕事柄、社内のいろいろな部署に出向いて行く。 トラブルの復帰待ちの間、依頼者は暇になるらしく、社内の噂話など世間話をしてくる。時には嘘か本当か、誰にも言えないような際どい話を聞かされることもある。 良いのか悪いのか。 そんなゆるい雰囲気の中、車は高速を走り続ける。
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