身を捨ててこそ浮かぶ瀬もあれ

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「なあ、タバコ吸ってもいいか?」 突然、沼田がライターを手にタバコを口にくわえながら、阿久津に問いかける。断りを入れてはいるけれど、吸う気満々じゃないか。 「普段は禁煙にしてんだけどな。まあ、いいよ」 阿久津が運転席の窓を開けながら答える。 「悪いな」 沼田が悪びれる様子もなく窓を開けながら言う。 本当に悪いとは思ってないだろ。 と、突っ込みたくなるけど……。でも、携帯灰皿は持っているみたいだ。 「私、タバコの臭い嫌いなのよね」 愚痴りながら、里奈も助手席の窓を全開にする。 「ぼ、僕もタバコ苦手で……」 言いながら、僕側の窓も全開にする。純度の高い新鮮な冷気が車内に流れ込む。 真冬の夜中の高速道路を、四つの窓全開で突っ走るステーションワゴン。 傍から見たら、どう思うのだろうか。 寒さ我慢大会? 何かの罰ゲーム? 窓の開閉系統のトラブル? そのくらいなら、まだマシだけど、 違法ドラッグでハイになっている? なんて思われて、通報でもされたらどうしよう? って、そんなことを心配してしまった。 その間にも車内の空気は物凄い勢いで入れ替わり、さっきまで暖房で暖かかった快適空間は、真冬の寒空の下に放り出されたかのような底冷えのする空間に変わっていた。
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