身を捨ててこそ浮かぶ瀬もあれ

「誰もいなぁい」

はしゃぐ里奈と阿久津は売店の方に向かっていく。
沼田は喫煙スペースに行くようだ。
みんなを横目に僕はトイレに向かう。深夜ということもありトイレに人の姿は無かった。
長く我慢した後の小便はたくさん出る。一回出し始めると止まらない。
全部出し切りスッキリし、手を洗って戻ろうかと思い、洗面台の蛇口に手を伸ばすと……。

水が出ない。
あれ？
これって手をかざすと水が出るタイプの蛇口だよね？
もう一度やってみよう。
手をかざす。やはり水は出ない。
手をかざす時間が短い？
さっきより長い時間、手をかざしてみる。やはり出ない。
手をかざす位置が悪い？
蛇口の下で手を前後左右に振ってみる。やはり出ない。
何が悪い？
センサーの汚れ？
故障？
どうする？
しばし、小便を済ました手のままで、考え込む。

あ、隣の洗面台を使えば良いんだ。
三台並んだ洗面台なので、他の洗面台を使ってみる。
水は普通に出た。
なんで、こんな簡単なことに気が付かなかったんだろう。
まあ、でもちゃんと手を洗えて良かった。
さあ、スッキリしたし、みんなの所に戻ろう。