縋っていたいだけ。

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〝絶対に彼女には秘密だからな〟 そう言われ元恋人とセフレになった──── それは遡ること数日前のこと… 私の名前は奏、同棲している彼氏の歩とは交際を続けることもうすぐ1年が経つ。 いつも通り、一緒に食卓を囲んていたそんなときだった。 突然、箸を机に置いたかと思えば、真剣な顔付きで「俺たち、別れよう」 そう、ハッキリと別れを告げられた。 私はその言葉に動揺し、握っていた箸を床に落としてしまう。 「え?…き、急に何言って…」 歩の言葉に呆気に取られていると 『いや、気になる子見つけちゃって、いい感じだから奏はもういいかなぁって』 歩は私と目線も合わせないで言葉を続けていたけど、頭には全く入ってこなかった。 気づくと玄関に向かう彼を追いかけていて手には特になにもなくて 『とりあえず今日は帰るよ、あ、荷物は後日取りに行くから』 そう口にしなから靴を履いた彼はコートを羽織って出ていってしまった。 かける言葉はたくさんあったけど、ありすぎて整理ができなくて口が込もる。 パタンと閉められた扉、静寂が漂う部屋、たった数秒の出来事が全く理解できなかった。 いや、したくもなかったのだろう。私はその場にへたり込むしかなかった。 彼と離れたくない、別れたくないその一心で、ダメとは分かっていながらも歩に謝りに行こうと彼の家に足を運んでいた。 インターホンを鳴らしたが中々反応はなく、諦めきれなかった私は出てくれるまで何度も鳴らす。気怠そうな歩が出てきて 『いい加減にしなよ』 開口一番にそう言われたが、入れて、話がしたいのと懇願することしか出来なかった。 『はあ、めんどいし…入るなら入れば?』 不満そうな表情で言ってくるのさえ私は嬉しかった、怒ってようが何でもいい。 …家の中に入りリビングに移動すると立ち話をするように向かい合い。 すぐに語気を強くして「もう理由は話したし、俺たちはもう別れてんだから」なんて言ってきた彼の言葉を生暖かいもので遮った。 『っ、しつこいな』 いきなりキスをしてきたことに驚いたのか怒ったのか彼は私を思いっきし突き飛ばした。 ソファがクッション代わりになって特に頭や腰を打ったわけでもなかったけど、ここまで来て諦めて帰るなんて選択肢も、正常な判断をする思考回路ももう私にはなかった そんな私が彼の家に来てまで伝えたかったことは別れたくないということだったけど、それが無理なのならもう体の関係だけでも繋がっていたいというのが素直な本音だった。 「別れてもいい、2番目でもいい、好きじゃなくてもいい!それでもいいからそばにいたいの…!なんでもいいからセフレでもいいから……お願い」 縋るように、強欲で女々しくも低俗な言葉が口から溢れ出し、涙が頬を濡らしていた。 鳴咽する私を見て彼はなんの言葉をかけるわけでもなくズカズカと距離を縮めると、手首を掴んでベッドまで手を引かれ、唇が触れそうなほど近い距離とギシッという音を耳にした瞬間組み敷かれたことを理解すると瞬時に頬が紅潮するのを感じた。 動揺する間もなく両手に指を絡ませてきて、あやすようなキスをされた。 『いいけど、1回だけだから』 それから、意思表示としては充分なほどに狂乱な如き愛撫に没入した。 可愛がるような愛撫をされる度に段々と言い表しようのない罪悪感に苛まれたが、そんなものはすぐに快楽で掻き消された。 手で馴染ませてからムクムクと挿入可能になったペニスを自分の中に手繰り寄せるように招くと最初はゆっくりと、焦らすかのように出し入れを繰り返してきて、かと思えば一方的に自分の荒々しさを押し付けるようにベッドの上でリズムを刻まれて彼の揺れる銀色のネックレス、滴る汗、私の体は痙攣を止めることを知らないようだった。 その日は付き合っていたときにした交尾よりも激しく感じ、体がもたず終始ぐったりとしていたけど歩が帰り際にかけてくれた言葉は優しくて、また会いたいという気持ちが増進するばかりだった。 早々に帰路に着くと、夜の街灯に照らされて、なんだか急に現実感が戻ってきて〝やってしまった〟ということに後悔しているようなしていないような、ごたついた感情が今更頭の中で混在していた。 この日から私たちの関係は変わり、恋人……とは近いようで程遠い複雑な関係が生まれた。 それでも嬉しかったんだと思う、体の関係だけだろうと歩と繋がっていられるだけで幸福感に満ちていたから。 『ね、さっきから上の空じゃん、なんかあった?』 だから恋人みたいに心配されると余計に胸が苦しくなった。 「なんでもない。それより今日もするんでしょ」 ベッドで横に並んで座る彼の顔を覗き込むようにそういうと、雰囲気がガラッと変わって手早く衣服を脱がされた。 彼も私と同様に下着姿になると、私は自ら彼のも脱がして直接肌と肌が密着するように抱きついた またこの感じだ、はやる気持ちが胸を圧迫して呼吸が浅くなるのを感じながら愛撫もほどほどに挿入された。 でも今日はいつもと違った。なにかが違う、感じ方とかではなくてもっとこう根本的なものが違うように感じたのだ。 だから律動が始まると彼の胸板を押して言った 〝待って〟そう口にしたけど彼は止まってはくれなかった。 しかしそんな私の言葉も虚しく行為は続いた いつもなら優しく愛撫をしてくるはずの手はなんの躊躇もなく私の手首をベッドに押し付けて、優しさは微塵も感じられない荒々しい接吻。 それ以上に彼の物から私の中に染み渡るように流れてくる熱に胸の高鳴りが止まらなかった。 歩との交尾はいつも幸せで満たされるのに今日のは違った、圧倒的に支配されているような感じがして、なによりも高揚感に満ちていて身体中の細胞一つ一つを侵食されるような錯覚に陥った。 彼の首に手を回してキスを乞えば口内を独占するかのように舌を差し込んできたり、それが私も嬉しかったけど、今日はなんの言葉も返ってこない まるで私の存在なんか見えてないみたいだ…というより、私の体しか見ていないのだと改めて自覚する、それが虚しくもあったけど彼女じゃないのだから当たり前だろう。 その代わり腰が抜けるほどの気持ちよさと同時に、強制発情させられていると言っても過言ではない快楽を体に刻まれているようだった。 彼の種を私の最奥に植え付けるように押し付けられると、いつもより長く続いた交尾の余韻に浸りながら私は涙を流していた。 その後は余韻に浸りながら、対面座位で向かい合っていた。今までとは違った行為に興奮を隠せない私はすぐに達してしまう それでも、この体は快楽に貪欲なようで歩の勃起したそれを美味しそうに咥え込み、中を擦り上げられる度に意識が飛びそうになるほど快楽に溺れていた そこからの記憶はあまり覚えていない、だけどいつもみたいな優しさはなくただ彼の思うままに体を弄ばれていた気がする。 でも、そんなことよりも今目の前にある体の暖かさと心地よい振動が私の眠りを誘った 気づくとカーテンの隙間から漏れる朝日で目を覚ました。 朝だということを理解すると、まだ開ききらない瞼を手の甲で擦りながら体を起こそうとするもいつもよりも気怠く鈍い重さが全身にのしかかる感覚があり、兎にも角にも腰が痛すぎて上半身を起こすことすら億劫だった。 幸い彼はまだ眠っているようで、寝相がいいとは言えないが私を抱き枕代わりにして寝息を立てていた。 起こさないようにベットから抜け出そうとすると自然と彼の腕は解けていった、若干寂しい気持ちになりながらも着替えを済まして彼の家を後にすると、体は依然として気怠さを残していたけど余韻がまだ残っているような気がした。 しかし今日は出ないと単位が貰えない科学の授業があることを思い出して急いで大学に向かった。 数時間が経過し、今日は午前中の講義だけだから昼過ぎには帰ることができた 家に着くともう眠気が限界だった私は荷物を置くとすぐにベッドに飛び込んだ、少し仮眠を取るつもりが目が覚めたのは夜の7時過ぎで、今から夜ご飯を作るのも面倒臭いからとコンビニ飯で済ませることにしラフな格好でコンビニまで足を運んだ。 適当に選んだ缶チューハイとカップ麺の会計を済まして、店を出て交差点で信号待ちをしていると、ふと人影に目がいった コンビニから出てきたその人影が街灯に照らされると見えたのは、銀色のネックレスを掛け、とてもラフな格好の歩らしき人物だった。 私は見間違いかと思い目を擦ったが、やはり歩であった。信号が青に変わった瞬間に歩に駆け寄ろうとしたのだが、コンビニから出てきた可愛い女の子が歩の腕に手を絡ませている光景に思わず足を止めた。 二人の関係が気になって仕方なくなっていると二人は人目が無いからなのか、磁石のS極とN極のようにお互いに吸い付くようなキスを交わしているのを見てしまい、気が気じゃなかった。 そうこうしているうちに信号は赤から青へと変わってしまったが、自分を落ち着かせるためにビニール袋から取り出した缶の蓋を開けて乾いた喉にチューハイを流し込むが冷えたチューハイに泣かせられそうになったのは初めてだった。 これから二人はどこに行くんだろうかと思って目が離せずにいると、あっさりと女の子は去って行ったことから、黒い心が私の足を動かした。 「……あれ、歩…?」 信号を渡って背を向けた歩に駆け寄って偶然を装って話しかけた。 『ん?奏じゃん、偶然だね』 「だね…!あっその…終電逃しちゃって…」 「それで、もし歩が良ければ……」 『……うち来る?』 「えっ、いいの……?」 『良いよ。部屋散らかってるけど』 「全然大丈夫!嬉しい……!」 そして他愛のない話をしながら歩の家に向かって歩みを進めた。 歩の家に着き、部屋に上がらせてもらうと予想通りというか、言った通り部屋は散らかっていて綺麗とは言えない 床には乱雑に脱いだであろう衣服が並べられており、その横に積み重ねられたアダルトビデオ見るに明らかにだ彼女とかに見せる部屋ではない、私がセフレだからなにも気にすることがないのだなと思わざるを得なかった。 お互いに会話をするわけでもなく、とりあえず買っておいたコンビニのご飯を温めてダイニングに並べると二人で黙々とご飯を食べていた。 そして食事を済ませると私が先にシャワーを浴びた。お風呂から出ると歩も続いて入ったが恋人みたいなことをしても恋人にはなれないという虚しさに蓋をしながら、下着の上に黒いキャミソールと短パン姿で彼が出てくるのを待っていると、洗面所の扉を開けて歩が出てきた。 先に口を開いたのは歩の方で、今日は無理させちゃうかもと口にしてきたその矢先、指と指を絡ませて重心を乗っけるようにそのままベッドに押し倒してきた。 下着姿で誘惑しているのだからこうなってしまうのも当然ではあるが、妖艶に微笑む彼の目には何も映っていないようなそんな感じがして不気味でならなかった。 そんな歩は息を潜めて首筋に舌を這わせてきたり、強弱をつけて身体中に指を這わせたりしてくるので息が段々と荒くなってしまっていた 次第に胸の先っぽにまで手が伸びてきて服の上から親指で弄られると少しもどかしい気持ちになってしまって無意識に声が漏れてしまう。 それに気を良くしたのか徐々に力が強まっていき、まるで雑巾を絞るかのような勢いで揉まれると私も胸を突き出すようにして背中を浮かせて体を反らせてしまっていた。 すると急にキャミソールを脱がされたかと思うと服を捲られて首からくびれまで優しく愛撫されながら下着に手を掛けられたので私はそれを受け入れるように腰を浮かして脱ぐと それを彼は褒めるように接吻してきて、私も同じように唇を重ね合わせると歩は深く舌を押し込んできた。 彼の舌は私の口内を蹂躙するようにねっとりと動き、それに応えるように舌を絡めとると厭らしい水音が頭の中に直接響くようでついボーッとしてしまう。 そして貪り合うように舌を絡めてお互い息が荒くなり始めた頃に彼は口を離すと唾液の糸を引いて私の口元に付着した。 それを合図に私の耳を舐め始めた歩は甘噛したり耳を溶かすかのように執拗に責めてくるので自然と喘いでしまい そのまま下腹部に手を滑り込ませてきて、下着の上から陰部をなぞられる 彼はきっとこうすれば私が快楽に堕ちることを知っているのだろう。 私はその行為に抵抗することなく自然と腰を浮かせて彼の指が動くようにするのだが、その動きは優しく、逆に焦らされているような感じがして早く強い刺激が欲しくなると、それを察したように歩の手つきが次第に荒くなりその度に嬌声を上げてしまうが、それと同時に頭の中がぐちゃぐちゃになった。 どうしてこんなことしてるんだろう どうしてこんなに虚しいのだろう 好きな相手に抱かれてるのに、どうして? そんな思考が飛び交って、行為を中断したくても中断してしまったら私と歩の繋がりなんてない、さっき一緒にいた女が彼女なのか、はたまた別のセフレかなんて分かりたくもないけど頭の中でずっと巡ってしまう。 どっちにしろ嫉妬心を抑えるなんて無理だけど彼女でもない私にそんなことを彼に言う権利はないんだ。 ただの自己満足な関係なのに、独りよがりの恋をしたって歩は私のことなんて見てもくれないと理解しているはずなのに、求められると嬉しくて離れられないし、拒めない そんな自分に嫌悪感を抱きながらも好きな感情と欲求は止められなくて、どんどん自分の心を蝕んでいく。 恋人の関係に戻る妄想とか、もしかしたらもう一度愛してもらえるかもとか考えて、馬鹿馬鹿しいって分かってるのに抜け出せないし 負のループ、泥沼の恋、関係切った方がいいとか言われそうだけど、そんなのもう無理、嘘でも常識外れでも彼と居たくて、ただ歩を離したくなくて、離れたくない 体を重ねているときだけは私だけを見てくれている気がするから、体だけでも愛して貰えるならそれでよくて、もうそれしか考えられなくなっていた。多分、もう手遅れ。 私は取り繕った笑顔で、今夜も彼の体に、歩に縋る思いでまた一夜を過ごす。 そうして朝が来ればお互い他人みたいに支度して、それの繰り返しなんだ───。
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