レベル上げ

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レベル上げ

 やっば、そう呟いたルナは、汗ばんだコントローラを手から離した。  目の前にはゲームオーバの画面、目的地への移動中に死んだ。  ここ数日、必ずここでやられている。 「この道で正しいはずなんだけどな」  セーブ一覧にまで戻ってしまった画面を切なげに見詰め、独り言を漏らしている。  道なりに進むと、泉で強敵に遭遇する。  その先にあるという湖を目指しているのだから、ここは越さねばならない壁だ。  人生に、越せない壁はないと聞く。  つまりは越せる範囲内での困難しか起こらない。  確かにルナに、世界規模での環境破壊や貧困問題と立ち向かう機会はない。  目の前の壁(ゲーム)については何度挑戦しても駄目なのだから、先を急ぐなという見えない何かからのメッセージだろう。   一)レベル上げ  RPGを楽しみたい以上、どこかで必ずやらねばならないことであり避けて通れない。  まずは主人公や仲間たち(パーティ)の装備を見直すために、町へと戻ることにした。  宝箱や倒した敵から入手(強奪?)したものなど、手持ちの武具を見直し不用品は売ることに。  中古だから仕方ないのだが、大した金にならないのはこちらの世界も同じだ。  次にカーソルを【買う】に合わせると、同じ店主が今度は豊富な品揃えを見せてくれる。 「高いなあ」  話しを先に進めること最優先でここまできてしまったため、金がない。  楽に敵を倒せるレベルの土地まで少し戻って、面倒だがそこで金と経験値を稼ごう。  話しが戻るわけでもやり直しでもない、無理して進めたツケがこの場所(タイミング)で来てしまっただけだ。  これ以上は、ある程度やり込んだ(プレーヤー)以外お断わりということだ。 「可哀想だな」  ふと画面の主人公に同情する、アテもなく戦い続けさせられている。  はっ、とか、ふっ、とか気合いの声を出し、重たそうな鎧や盾を装備させられた男の子。  何度も死んで、何度もなかったこととして、死ぬ前に戻されやり直す若者。  死んでいた間の記憶がない、死んでいたことすら知らされていない哀れな主役(ヒーロー)だ。  これもRPGの醍醐味と、ルナは画面と向き合った。
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