0人が本棚に入れています
本棚に追加
/4ページ
レベル上げ
やっば、そう呟いたルナは、汗ばんだコントローラを手から離した。
目の前にはゲームオーバの画面、目的地への移動中に死んだ。
ここ数日、必ずここでやられている。
「この道で正しいはずなんだけどな」
セーブ一覧にまで戻ってしまった画面を切なげに見詰め、独り言を漏らしている。
道なりに進むと、泉で強敵に遭遇する。
その先にあるという湖を目指しているのだから、ここは越さねばならない壁だ。
人生に、越せない壁はないと聞く。
つまりは越せる範囲内での困難しか起こらない。
確かにルナに、世界規模での環境破壊や貧困問題と立ち向かう機会はない。
目の前の壁については何度挑戦しても駄目なのだから、先を急ぐなという見えない何かからのメッセージだろう。
一)レベル上げ
RPGを楽しみたい以上、どこかで必ずやらねばならないことであり避けて通れない。
まずは主人公や仲間たちの装備を見直すために、町へと戻ることにした。
宝箱や倒した敵から入手(強奪?)したものなど、手持ちの武具を見直し不用品は売ることに。
中古だから仕方ないのだが、大した金にならないのはこちらの世界も同じだ。
次にカーソルを【買う】に合わせると、同じ店主が今度は豊富な品揃えを見せてくれる。
「高いなあ」
話しを先に進めること最優先でここまできてしまったため、金がない。
楽に敵を倒せるレベルの土地まで少し戻って、面倒だがそこで金と経験値を稼ごう。
話しが戻るわけでもやり直しでもない、無理して進めたツケがこの場所で来てしまっただけだ。
これ以上は、ある程度やり込んだ人以外お断わりということだ。
「可哀想だな」
ふと画面の主人公に同情する、アテもなく戦い続けさせられている。
はっ、とか、ふっ、とか気合いの声を出し、重たそうな鎧や盾を装備させられた男の子。
何度も死んで、何度もなかったこととして、死ぬ前に戻されやり直す若者。
死んでいた間の記憶がない、死んでいたことすら知らされていない哀れな主役だ。
これもRPGの醍醐味と、ルナは画面と向き合った。
最初のコメントを投稿しよう!