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雪の日の記憶
昔から、雪を見ると、なぜかとても悲しい気持ちになる。
大切な誰かを失ってしまったような、心にぽっかりと穴が空いてしまったような……。
『わたしは、あなたと出会えて幸せでしたわ』
自分ではない自分の記憶。
何度も夢で聞いた声。
キミは、誰だったの?
『この選択に、後悔などしておりませんわ』
一面、白銀の雪。
覚えているのは、憂いと慈愛を湛えたアクアマリンのような色の澄んだ瞳と儚い笑顔。
『守れなくてごめん』
キミだけでも救いたかったけれど、神殿で神に仕える巫女でもあったキミは、一人だけ逃げることを望まなかったから、吹雪に包まれていく世界で、散っていった者たちへの鎮魂歌を捧げながら命を落として、夢の中の僕も、彼女の後を追うように吹雪に包まれた世界で永遠の眠りについた。
ふわふわしているように見えるのに冷たい雪。
昔から、雪が苦手だった。
「雪でも濡れるし風邪をひくわよ?」
声に振り向けば、顔見知りとなった女性が、傘もささずに雪を見上げていた僕を心配そうに見ていた。
「私の傘でよければ、入る?」
なんて言いながらも、僕が濡れないように既に腕をのばして僕を傘に入れてくれている彼女は、優しいと思う。
「ありがとうございます。お言葉に甘えさせてもらいますね」
社交辞令ではない、僕の身を案じてくれるその心が嬉しかった。
「今日は晴れだと聞いたのですけれど……ね」
「天気予報は珍しく外れて、この雪だものね。どこのドラゴンのイタズラなのかしら?」
「ふはっ、ドラゴンって……おとぎ話じゃあるまいし……」
この日から、雪の日の思い出に、この日のできごとが加わって、僕は淡い恋心の芽生えと共に、雪への苦手意識を克服できたんだ。
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