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固まった私達の目の前で、たんくんはガアアン!と大きな音が鳴るほど派手に玄関の扉を開くと、そのまま猛ダッシュでマンションの外へ飛び出していってしまったのだった。
「ちょ、たんくん!?どこ行くの、たんくん!?」
私とナツメ姉ちゃんの二人で追いかけたが、彼の姿はあっという間に見えなくなってしまった。どうしよう、と本気で困ったものである。通学班が全員揃っていなければ、学校に出発することができないのに。
私はそれぞれの親たちに連絡して、最終的にはそのまま学校へと出発し、先生に報告することになったのだった。通学班の子が一人どっかに行ってしまいました、と。
そして。
その日の昼休み、私は学年主任のおばさんの先生に呼び出されることになるのである。否、私だけではない。他の学年の、同じ通学班に所属する全員が指導室に呼ばれたのだ。
先生は私達に言ったのだった。
「その、今日いなくなってしまった“たんくん”って男の子のフルネーム、わかる?マンションの、何階に住んでる子なの?……私達が把握している限り、●●マンションの通学班に在籍している子はあなた達で全員のはずなんだけど……」
そう。
ここで、私達はようやく気付いたのだった。
たんくんのフルネームを、何故か誰も知らない、覚えていない。
彼がいつから私達の通学班に混ざっていたのか覚えていない。
そして、小さなマンションなのに、彼が何号室に暮らしていたかも知らない――。
「え、え……え?」
困惑する私達の耳に、もう一つニュースが飛び込んできたのはこの直後のこと。
とある民家が“野犬かクマ”に襲撃されたという。正確には、その獣の姿が目撃されたわけではない。ただ民家のリビングには、派手に食い散らかされた老夫婦の遺体が見つかったのだと――。
その家は、私達のマンションの本当にすぐ近くだった。
――まさか……。
正確なことは何もわからない。確かなことは、その日以来、私達がたんくんを見かけることはなくなったということである。
もし、私達がナツメ姉ちゃんの教えに従い、たんくんの世話を焼いていなかったら。全員が数回以上、彼にお菓子をあげたことがなかったならどうなっていただろうか。提供を拒否した時点で、食べられていたのは、もしかしたら。
真実は闇の中である。
確かなことは、たんくんは行方知らずのままということだけ。
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