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元ナンバー2のオオカミは必死で泳ぎましたが、川の流れはあまりにも早すぎました。
どうにかギリギリで岸に辿りついたものの、そこで気絶してしまったのです。
「あの、大丈夫ですか?」
「え」
そんなオオカミが起きた時、目の前にいたのは小さな子ヤギでした。まだ角も小さく、体も小さく、ふかふかで真っ白なヤギです。子供であることは明白でした。
しかし子ヤギは焚火をして火を燃やすことで、びしょぬれのオオカミの体を温めて、さらにタオルで体をふいてくれていたのです。
オオカミは驚きました。山羊がいるということは、ここは西の森であるはずです。西の森の動物たちについて、東の森の動物たちはみんなこう話していました。
『奴らは自己保身しか考えない臆病者ばかりだ。気が小さくて、自分を守るためなら他のやつを平気で蹴落とす酷いやつらばかりだ。東の森のやつらがどれだけ腹をすかせて困っていても、同じ草食動物が困っていても見向きもしない』
橋をかけることに西の森の動物たちが反対していたというのもあるでしょう。西の森のことを、良く言う動物は一匹もいませんでした。
しかし目の前の子ヤギは、オオカミという肉食動物を前にしてもへっちゃらという顔をしています。それどころか、命まで助けてくれました。自分が食べられてしまうかもしれないのに、です。
「お前、俺が怖くねえのか。それとも、狼ってやつを見たことがねえのか」
「見たことはないけど、姿は知ってます。でも、僕は怖くないです」
子ヤギは寂しそうに笑いました。
「それより僕は、同じ西の森の、草食動物のみんなの方が怖い」
彼の言葉で、オオカミは知ります。実は西の森でも同じことが起きていたのです。
西の森には草食動物が多く、それも大人しい性格の者が多かったはずでした。しかし、草食動物が多いということは、草がどんどん減っていくということでもあります。
西の森も、食べ物が減りつつありました。その結果、同じ動物でも弱い者は見捨てられて、食べ物を取り上げられたり森から追い出されるようになっていたのです。
子ヤギは言いました。自分は、七匹の兄弟の末っ子で、一番小さくて体が弱いと。家族が多いことで、お母さんとお父さん山羊は肩身の狭い思いをしている。このままだと、自分が群れを追い出されてしまうかもしれない、と。
「僕だけじゃない、家族みんなが嫌われています。そして僕達家族はひ弱なのでこの森を追い出されたら生きていけないことでしょう。追放と言われた時点で、死んでしまうのがわかっています。僕はそれが怖いです」
彼は言いました。
つい少し前まで仲良しだった動物たちが、自分達のせいで食べ物が減ると冷たくしてくる。学校のではいじめられ、ちょっと前まで友達だった子が彼の机に落書きをしたり、ノートや鉛筆をゴミ箱に捨ててくる。
それにとても疲れてしまって、最近では死にたいとさえ思っていると。追放されて野垂れ死ぬくらいならば、自分で死んでしまった方がましであるような気がしてくると。
「でも、どうせなら、苦しくない死に方がしたい。そして、みんなに恥ずかしくない死に方がしたいのです。だから、オオカミさんが来てくれて本当に良かった」
子ヤギは笑います。
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