もしも狼が、子山羊と友達になったなら

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「さあ、オオカミさん。お腹がすいているでしょう?僕を食べてください。でも、できれば痛くないように、頭から先に食べてくれると嬉しいです」  オオカミは、何も言えなくなってしまいました。そんな話を聴いてしまったら、正直子ヤギを食べる気にはなりません。  食べものが少ない。それがどれほど恐ろしいことか。  東の森には草食動物が少ないので、まだまだたくさん草があります。あちらに行けば、西の森の動物たちも飢えずに済むでしょう。同時に、東の森の動物たちもたくさんの獲物にありつけるに違いありません。  しかし、川に橋をかけないということになってしまっている以上、二つの森を行き来することは難しいことです。そのせいでどちらの森も食べ物が少なくなって、身内で争うことになっている。なんと悲しいことでしょうか。 「……お前は」  オオカミは言いました。 「お前は、もし。お前じゃない別の家族がいじめられるようになったらどうすんだ?お前よりもっと弱くて、力もなくて、チビばっかりでよ。そういうやつが学校で、森でいじめられて追い出されそうになったら」 「え」  オオカミの問いに、子ヤギは言います。 「助けるに決まってます。こんなの、間違ってるんですから。どうしてそんなことを尋ねるのですか?」  彼は、何の迷いもないようでした。  自分よりもっと弱い者が現れて、その子がいじめられるようになったら。子ヤギとその一族は、いじめから解放されるかもしれません。  踏みつけられる側から、踏みつける側に回ることができるのです。それは、今までとは違った、安全な生活が保障されるということでもあります。  オオカミは言いました。お前もいじめる側になればいいのではないかと。そうすれば、そいつらがいじめられている間自分達は平和でいられるじゃないか、と。  すると、子ヤギは怒り出しました。 「そんなこと絶対駄目です。やりたくもありません」 「何でだ」 「それは、僕が僕でなくなってしまうということだからです。僕は、自分がいじめられて、辛いことを知っています。だからって、それをいじめた人にやり返したくはありません。他の人がいじめられているのを放置して、自分の安全を買いたいとは思いません。それをしてしまったら最後、僕は、僕でなくなってしまうと思うからです。……何か、間違ってますか」 「……いや」  オオカミは笑ってしまいました。  それは、狼の子供を庇った自分と、まったく同じ考え方だったからです。オオカミは追放されて、酷い目に遭いました。それでも実際のところ、追放されたことを一切後悔はしていなかったのです。たとえ、ここで子ヤギに出会わず、そのまま死んでいたとしても、です。 「お前、最高に馬鹿だわ。気に入ったぜ。気に入ったから、食ってやらねえ」  お腹は、とってもすいていました。それでもオオカミは、意地でもこの子ヤギを食べてやるものかと思ったのです。   ――何か、方法はないものか。こいつを助けてやれる方法を。森を救う方法を。  オオカミは考えました。  こっそり森の図書館にも行って、いろいろな資料を集めました。そして、結論を出したのです。 ――ああ、そうか。こうすりゃいいんだ。
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