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はぁっ、はぁっ、はぁっ……
荒い息遣いで、化学棟の螺旋階段を、一人の少女ができるだけ足音を立てないように注意しながら駆け下りて行く。
少女の背後からは、カツコツという革靴の音が聞こえるが、姿は見えない。それが余計に少女の恐怖を煽った。
ヨーロッパの宮殿を模して作られた校舎の天井は高く、音がよく響く。
少女は隠れる場所がないか辺りを見回した。
足音を立てて逃るより、隠れて静かにやり過ごした方が良いだろうと咄嗟に判断した。
化学棟の教室は安全管理のため、授業以外の使用を禁じており、施錠している。
教室に入ることはできなかった。
廊下に並ぶアーチ型の大きな窓の開閉もできない。
少女はタッセルでまとめられたベルベットのカーテンに身を滑り込ませて隠れた。
荒い息をなんとか落ち着かせようと口元を手で覆い、息ひそめようと努力する。
カツコツと革靴の音が近づくにつれ、少女は心臓が、早鐘のようにドクンドクンと体中に響くのを感じた。
自分が隠れているカーテンの前で靴音が止まる。
ぎゅっと目を瞑った少女は「見ぃつけた」と、不気味な声を聞いた。
次の瞬間、ニタリと笑った男が震えている少女の腕を掴んだ。
大声をあげかけた少女は何かの甘い香りがする、と思いながら意識を失った。
カツ、コツ、と革靴の音が再び響く。
足音は次第に遠ざかり、誰も居ない化学棟に再び静寂が訪れた。
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