雪を踏む

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 サクサク  小さい頃、雪を踏みしめる音はそうだと思っていた。  僕が住む町は関東地方にある、のどかな田舎町で、そこまで寒くもなく暑くもない。過ごしやすいとも言える。  ただ、冬の風物詩とも言える雪がほとんど降らない。  降ったとしても、数センチの積もる程度で、昼になってしまえば溶けて消えてしまう。  もしも積もった雪を触りたいと思ったら、朝早く起きるか、夜遅い時間に外に出るしかなく、小さい僕にはどれも難しかった。  その代わり、のんびり起きた朝でも日陰にひっそりと残っている、雪に()わるものが僕にはあった。  それはーーー『霜柱』だ。  霜柱は冬の季節になると、よく庭にできる。  いつもは真っ平らな土がこの時期になると、ふわりと盛り上がる。そして踏み締めると、サクっと音が鳴る。足跡もしっかりできる。その足跡から地面の隙間を(のぞ)けば、氷の柱が地面を持ち上げていた。  小さい頃の僕は、霜柱を踏んで足跡をつけるたび、積もる雪に想いをはせていた。  氷も雪も、寒い冬にできるもので”仲間”なんだと子供ながらに思っていて「きっと、雪が地面に積もったら、仲間同士、同じ音が鳴るんだろう」と想像しては楽しんでいた。  そうして、小学、中学と大きくなれば、朝早く起きることも、陽が落ちた遅い時間に外へ出ることもできるようになった。  そして、数年ぶりの大雪の日。庭が一面、真っ白になるほど雪が積もった。僕は満を()して、たっぷりと積もった雪を踏みしめた。  ギュ  そんな音だった。  想像していた音と違っていた。  調べて見ると、雪は地域によって、水分量が違うらしい。僕が住む地域は水分を多く含んだ湿り気がある雪で、ふわふわとした綿菓子みたいな雪は僕が住むもっと北の方でないと降らない。  残念だなと思ったけど、面白いなとも思った。  僕はそれから雪が降るたびに、その発見を思い出してほくそ笑む。
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