1.偶然か必然か

14/14
136人が本棚に入れています
本棚に追加
/368ページ
 立ち去るとき、鳴海くんが会釈をしてくれるので、同じように返した。彼らがいなくなると、祥子さんがさっきと同じ質問を今度は私にぶつけた。 「知り合いなんですかねぇ。あの、ご近所さんなんです。今朝もゴミ出しで見かけて」 「へぇ、そうなんだ?」  学生が買い物に立ち寄るので、私はメモの続きに取りかかった。双鳳(そうほう)ピン880円、カギホック110円……。ボールペンを走らせながら思うのは、鳴海くんのことだった。  “沙耶さん”と名前で呼ばれたことが、なにより衝撃的だった。あれは完全に不意打ちだ。  あぁ、もう。  心臓がさわがしくて落ち着かない。さっきから勝手に早鐘をうっている。  たった一週間のうちに偶然の出会いが四度もあるなんて、まるで何かに仕組まれているみたい。  何かって何だろう? 自問自答し、わずかに上気した頬に手をあてた。  隣りのアパートに住んでいる服飾専門学生の彼と、シングルマザーで二十五歳、実家暮らしの私。年齢も立場もかけはなれていて、何の結びつきもなければ縁もゆかりもない。  ただ、偶然がかさなっただけ。そう思い込むことにした。  ***
/368ページ

最初のコメントを投稿しよう!