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母の強い瞳を見つめ、私は深く頷いた。
それから通っていた大学を中途で辞め、私の生活圏は家と総合病院に入った産婦人科、時々役所や近所のコンビニになった。
出来るだけ安静にして過ごし、勿論バイトも出来なかったから、退屈と言えばそうだったのだけど。日に日に大きくなるお腹を見つめ、我が子への愛情も膨らませた。
早く出てきて欲しい。早く会いたい。名前、なんて付けようか?
子供のことを考えていたら、もう次の恋愛なんて出来なくて良いと思った。子供が私の唯一の味方で、宝物。この子を守るだけで一生を終えても悔いはない。
*
「……爽やかで明るく、逞しく育つようにって。そんな意味を込めて、颯太って名付けたんです」
私は仕事の休憩時間、先輩の祥子さんにスマートフォンの待ち受けを見せた。
「今、四つなので中々に活発な時期だけど。優しい子に育ってます」
「颯太くんかぁ」
待ち受けの写真をぼうっと見つめ、祥子さんが微笑んだ。
「可愛いね。目元なんか、沙耶ちゃんによく似てる」
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