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大学生だろうか。服装はおしゃれだが、髪色と瞳を見て奇抜だな、と思った。まるでゲームの世界から抜け出してきたキャラクターみたいだ。
「下行きですが、大丈夫ですか?」
「あ。はい」
大学生らしき学生さんの背後でエレベーターのドアが閉まり、彼が私たちに背を向けようとした。
「あれ?」
急に慌てる学生さんを見て、彼になにが起こっているのかをようやく理解する。黒い大きな鞄のはしがドアに挟まっていた。
「おにーちゃん、だいじょうぶ?」
息子の颯太が両目をぱっちり開けて学生さんを見上げた。彼の身なりが珍しいせいか、食いいるように見ている。
「大丈夫、だよ」
彼は恥ずかしそうに笑みをかためた。うちの子がすみません、という意味合いをこめて会釈したとき。頭上からガクンと音が鳴り、体がかすかに揺れた。
颯太とつないでいた手が一瞬はなれて、慌ててつなぎなおす。エレベーター独特の浮遊感がすっかり消えていた。
「エレベーター、止まった?」
学生さんが天井を見上げて、私の思考を代言した。今度は彼と真正面から目が合った。
まず肌が白いと感じた。ほとんど日焼けのない肌だからこそ、今の明るい髪色がとてもよく似合っている。
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