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「そんなことないよ。沙耶ちゃん知らないと思うけど学生の間で密かに人気だよ? ほら、前に来た“チャック”とか、沙耶ちゃん狙いで購買来るんだよ?」
チャックって。
「ああ、確か。澤野くんって子ですよね?」
鳴海くんの友達の。
「そうそう」
あだ名の由来は既に聞いている。私が務めるより前に働いていた人が、ファスナーをチャックチャックと言って探す彼を、そう呼び始めたそうだ。
「恋愛。するとしても、学生は絶対にないですよ」
と言うか、今の状況だってモテている訳じゃないと思うし。言うなれば、動物園に生まれたパンダの赤ちゃん状態で、物珍しいから寄って来るだけだ。
「ここの子たちはみんな、何かしらの夢を持ってる訳ですから……彼らの夢を邪魔したくないです」
「うーん、まぁ、ね。沙耶ちゃんも息子ちゃんのことを考えたら、ちゃんと働いてる社会人のほうが良いか……」
「はい。結婚できないなら、恋愛する意味ないですから」
そうは思っても、元カレに手酷く捨てられた私が、これからまともに恋愛して、結婚を考えられるとも思わない。
「あれ、仁くん。もしかして何か欲しかったの? 残念、もう閉めちゃったよ?」
「あ……」
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