3.偶然の帰り道

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 私に子供がいることは、今のところ本店の従業員の人と祥子さん、そして学生の鳴海くんしか知らない。  学生の子に打ち明けるのは、あれこれ要らない詮索をされると困るから言えない。でも、事務局の人なら、分別のある大人だし言っておいても良いんじゃないかと思った。 「あの、津島さん」 「はい」 「実は私……。四歳の子供がいて、早く帰らないといけないので、飲み会などには参加出来ないんです」 「……え」 「だから、お気持ちだけ有り難く受け取っておきますね。今日もお疲れ様でした」  言いたいことだけ言って、頭を下げた。外に出るため階段を上る。  ガラス扉を抜けると風の冷たさに、ぶるっと体が震えた。帰り道はすっかり闇に包まれていた。 「早く帰らなきゃ」  左手首の腕時計に目を落とし、最寄り駅までの道を駆けた。この時間だと、いつもの電車には乗れない。どれだけ急いでも家に着くのは七時十五分過ぎだ。  駅に着いたら母にメッセージを送っておこう。母のことだから、颯太の晩御飯はもう済ませているだろう。  購買部の仕事を始めてから、颯太の保育園のお迎えは母に任せきりだ。  駅の改札を通り、数本停まった電車の中から早めに着くそれに飛び乗った。
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