雪の晴れ間に君が来た

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 そのルーチンとは、まず大きなため息を3回つく。これは深呼吸じゃなくため息だ。そして目を閉じる。しばらく目を閉じたまま。5分ぐらいたったら目を開く。あたしの顔を見てニコっとほほ笑むのだ。これで旦那の機嫌は直っている。 「すねて、ごめん」  などと謝ってくることもある。全面降伏だ。こうなるとあたしも何もできない。降伏している相手に、追い打ちをかけるほど鬼ではないし。むしろ、素直に謝られると、何というか(いと)おしさすら()いてくる。  こうして我が家は日常に戻る。  気になるのは、旦那のルーチンワークだ。あの一連の動きにはどんな意味があるのだろう。今日は、思いきって聞いてみる。 「ねえ、あなたがムッてなるのは、どんなとき?」 「(りん)さんが不機嫌で僕に八つ当たりしてきたときとか、自分が不得意なことはいつも僕に押し付けるときとかかな」 「あ、そりゃあ怒るよね。確かにあなたがムッとするのは分かる。でもため息をついて、何か瞑想(めいそう)状態になると機嫌が直るじゃない。あれって何やってるの?」 「ああ、それはを思い出すと、すうっと機嫌が直るんだ。それに、その、凜さんが可愛(かわい)く思えるようになる」 「え……。何、って……」 「ほら、15のことだよ…………」  あたしは、記憶をさかのぼった。15年前、それはあたしと旦那が結婚する前のこと。  あの頃、何があったっけ。あたしの記憶は、更に旦那に出会う前へと飛ぶ。   あたしにとって一番(つら)かったあの頃。
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