雪の晴れ間に君が来た

3/7
前へ
/7ページ
次へ
*********************************  15年前の記憶だ。  旦那と結婚する前のあたしは、大人(おとな)しく、愛想よく、うぶ子ちゃんだった。  でもそれ全部、良い子ぶりっ子していた。 大人しいふりをして、愛想のいいふりをして、誰にも逆らわず、ただうなずいて、良い子のふりをしていた。  あたしは、家族に怒られるのが怖かったんだ。  父や母、兄や祖母の前では常に、良い凛子(りんこ)ちゃんでいた。今から思うと、演じていたんだな。  これって、精神衛生上良くなかった。  更によくなかったのは環境かな。  大学は地元で、家から通っていたし、就職も父のコネで、地元の歯科クリニックの歯科助手をした。歯科助手は、歯科衛生士と違って、国家資格が必要ないのですぐに仕事につけた。  結局、家から離れることはなかった。煮詰まるというのか、閉塞感というのか、あたしはだんだん追い詰められていった。  誰に?  始めは家族や周りの環境だと思ったけど。  違う、自分自身だった。常に優等生であれ、清楚であれ、愛想よくあれと自分を叱咤した。それが人の道だと。  あたしは、自分の心のゼンマイを、ゆるめることなく、()め続けた。  カリカリ、カリカリ。ここで、ねじをゆるめると、どこへ走って行くか分からないブリキの車になるのが怖かった。  当然ねじは、締めつけられて固くなる。心の固さは、体の固さに現れる。体が痛い。頭も痛い。あまりにも痛いので、やっとこれはいかんと気づいた。このままだと、ねじが巻き切れて、ゼンマイが壊れる。  自分でもどうなるか分からない。耐え難い恐怖がみぞおちの辺りから湧いてきた。後から思うと、このときあたしは、軽い(うつ)状態にあった。  あたしは、気分を(まぎ)らわすために、手当たり次第に習い事やボランティア活動をした。茶道、華道、ヨガ、障がい者支援ボランティア、等々。  休む暇を(つぶ)してでも自分を変えようとした。今と違う自分に。  そんなときだ。今の旦那に出会った。  あたしが29歳のとき。  1月、とりわけ寒い冬だった。
/7ページ

最初のコメントを投稿しよう!

10人が本棚に入れています
本棚に追加