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15年前の記憶だ。
旦那と結婚する前のあたしは、大人しく、愛想よく、うぶ子ちゃんだった。
でもそれ全部、良い子ぶりっ子していた。
大人しいふりをして、愛想のいいふりをして、誰にも逆らわず、ただうなずいて、良い子のふりをしていた。
あたしは、家族に怒られるのが怖かったんだ。
父や母、兄や祖母の前では常に、良い凛子ちゃんでいた。今から思うと、演じていたんだな。
これって、精神衛生上良くなかった。
更によくなかったのは環境かな。
大学は地元で、家から通っていたし、就職も父のコネで、地元の歯科クリニックの歯科助手をした。歯科助手は、歯科衛生士と違って、国家資格が必要ないのですぐに仕事につけた。
結局、家から離れることはなかった。煮詰まるというのか、閉塞感というのか、あたしはだんだん追い詰められていった。
誰に?
始めは家族や周りの環境だと思ったけど。
違う、自分自身だった。常に優等生であれ、清楚であれ、愛想よくあれと自分を叱咤した。それが人の道だと。
あたしは、自分の心のゼンマイを、ゆるめることなく、締め続けた。
カリカリ、カリカリ。ここで、ねじをゆるめると、どこへ走って行くか分からないブリキの車になるのが怖かった。
当然ねじは、締めつけられて固くなる。心の固さは、体の固さに現れる。体が痛い。頭も痛い。あまりにも痛いので、やっとこれはいかんと気づいた。このままだと、ねじが巻き切れて、ゼンマイが壊れる。
自分でもどうなるか分からない。耐え難い恐怖がみぞおちの辺りから湧いてきた。後から思うと、このときあたしは、軽い鬱状態にあった。
あたしは、気分を紛らわすために、手当たり次第に習い事やボランティア活動をした。茶道、華道、ヨガ、障がい者支援ボランティア、等々。
休む暇を潰してでも自分を変えようとした。今と違う自分に。
そんなときだ。今の旦那に出会った。
あたしが29歳のとき。
1月、とりわけ寒い冬だった。
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