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意識がリビングに戻る。
旦那が15年前のことを語り始めた。
「そう、15年前の雪の積もった日。忘れもしない僕の大切な思い出の日。いや、僕にとってあの日は、過去のことじゃないんだよ。今も胸の中にある。特別な日なんだ」
旦那はソファに体をあずけて宙を見た。そして、あたしを見る。
「初デートの日でしょ。そんなに楽しかったの?」
「楽しかったよ。今でもドキドキするよ」
旦那は真笑顔で、あたしに語りかける。ちょっと、何か恥ずかしくなるじゃん。
「そ、そう……。そう言えば、あたしもワクワクしてた……かな」
「デートも楽しかったけど。今も僕の心に強く焼き付いている場面があるんだ。何度思い出しても色あせないスローモーション動画……みたいな」
「どっかでそんな、場面って、あったっけ?」
イタリアンレストラン? 映画館? 帰りに寄った喫茶店?
「それはね。桃之田駅だよ。
初めてのデートの日。
雪がやんで、良く晴れて、寒かったあの日。
凜さんは電車でやってきた。
空の青が鮮やかで、降り積もった雪で駅は真っ白だった。
反対側のホームに降りた凜さんは跨線橋を渡ってこちら側にきたよね。
青空の中真っ赤なダッフルコートが白い雪に映えてとても可愛かった。
下り階段を、雪を踏みしめながら、注意深く降りてくる凜さん。
僕は、心がふわっと広がるような気持ちになった。
顔を上げた凜さんは、僕を見つけて笑ったよね。
あの笑顔。
僕の喜び。
絶対に忘れない。
僕が死んでも天国に持って行ける宝物だ。
青空、跨線橋、雪の白、真っ赤なダッフルコート、そして君の笑顔。
今でも胸がときめくんだ。
今の凜さんも、あのときの凜さんも、同じなんだ。
そう確信すると僕の機嫌も直って、凜さんが愛おしくなるんだ」
マジで語る旦那。そんな話を聞くと、恥ずかしくなるじゃん。
そう言えば、旦那はあのとき、雪の降り積もったホームで白いコートを着ていたよね。
保護色っていうやつかな。雪もコートも白くて、あたしは旦那がどこにいるか分からず、泣きそうなくらい不安になったんだ。でも、待っていた旦那を見つけたときは、本当にうれしかった。あのときの気持ち、あたしも忘れていないよ。
今度、雪が降り積もった日には、あの赤いコートを着てイタリアンレストランに行こうか。ちょっとオシャレもして。久しぶりのデートしよう。
ただ、悲しいかなこの地方は、ほとんど雪が降らないからね。いつになることやら。
いいや、今度の日曜日、デートに行こうよ!
おしまい
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