雪の晴れ間に君が来た

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*********************************  意識がリビングに戻る。  旦那が15年前のことを語り始めた。  「そう、15年前の雪の積もった日。忘れもしない僕の大切な思い出の日。いや、僕にとってあの日は、過去のことじゃないんだよ。今も胸の中にある。特別な日なんだ」  旦那はソファに体をあずけて宙を見た。そして、あたしを見る。 「初デートの日でしょ。そんなに楽しかったの?」 「楽しかったよ。今でもドキドキするよ」  旦那は真笑顔(まえがお)で、あたしに語りかける。ちょっと、何か恥ずかしくなるじゃん。 「そ、そう……。そう言えば、あたしもワクワクしてた……かな」 「デートも楽しかったけど。今も僕の心に強く焼き付いている場面があるんだ。何度思い出しても色あせないスローモーション動画……みたいな」 「どっかでそんな、場面って、あったっけ?」  イタリアンレストラン? 映画館? 帰りに寄った喫茶店? 「それはね。桃之田(もものた)駅だよ。  初めてのデートの日。  雪がやんで、良く晴れて、寒かったあの日。  (りん)さんは電車でやってきた。  空の青が鮮やかで、降り積もった雪で駅は真っ白だった。  反対側のホームに降りた凜さんは跨線橋(こせんきょう)を渡ってこちら側にきたよね。  青空の中真っ赤なダッフルコートが白い雪に映えてとても可愛かった。  下り階段を、雪を踏みしめながら、注意深く降りてくる凜さん。  僕は、心がふわっと広がるような気持ちになった。  顔を上げた凜さんは、僕を見つけて笑ったよね。  あの笑顔。  僕の喜び。  絶対に忘れない。  僕が死んでも天国に持って行ける宝物だ。  青空、跨線橋、雪の白、真っ赤なダッフルコート、そして君の笑顔。  今でも胸がときめくんだ。  今の凜さんも、あのときの凜さんも、同じなんだ。  そう確信すると僕の機嫌も直って、凜さんが(いと)おしくなるんだ」  マジで語る旦那。そんな話を聞くと、恥ずかしくなるじゃん。  そう言えば、旦那はあのとき、雪の降り積もったホームで白いコートを着ていたよね。  保護色(ほごしょく)っていうやつかな。雪もコートも白くて、あたしは旦那がどこにいるか分からず、泣きそうなくらい不安になったんだ。でも、待っていた旦那を見つけたときは、本当にうれしかった。あのときの気持ち、あたしも忘れていないよ。  今度、雪が降り積もった日には、あの赤いコートを着てイタリアンレストランに行こうか。ちょっとオシャレもして。久しぶりのデートしよう。  ただ、悲しいかなこの地方は、ほとんど雪が降らないからね。いつになることやら。  いいや、今度の日曜日、デートに行こうよ!    おしまい
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