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核心
蓑傘が良く知っていると言う店に入る。
お客はいなかった。私達二人の為にお店が存在しているような感じだ。
内装は古く、壁やソファーは元の色が分からなくなっているくらいだ。建物もかなり古い。
「レイラさん。今回の事件はね。龍昇会と雲幻会を抗争させるために色々と仕組まれたものですよ。恐らく両方の組に内通者がいて、しっかりと情報交換を行い、今回の抗争が仕組まれたのかなと」
「確かに。そうでないと、あの爆破事件は難しいですね」
「雲幻会の内通者には当たりをつけて調べました。龍昇会の方はどうですかね」
「怪しい人ならいたわよ」
蓑傘は既に核心に近づいてきている。
そう。今回の事件は初めから仕組まれていた。警察が情報集と言った消極的な動きしかしなかったのは、初めから二つの組を抗争させて潰すことが決まっていたからだ。
警察としては特にやる事が無かったので、情報収集と言う動きに止めておいたと言う事だ。
上は知っていたのだろう。知らずに奮闘したのは下で働いている若人達だけだ。
抗争に巻き込まれてしまった一般の人達はどうなる。
亡くなってしまった人達は、浮かばれない。
人の命を軽く見過ぎていないか。
ふざけ過ぎている!
私はニヤリと笑みを浮かべて見せる。
「雲幻会の方は見限さんですかね。龍昇会は峰島さんですよ」
この二人は今回の件に間違いなく関わっている。それなりの報いは受けてもらう。
「見限についてはお見事と言うしかないですな。しかも見限と言う人間は存在しないんですよ。偽名でしたね」
「そうでしたか。そうなりますと、こっちの峰島も偽名ですかね」
「恐らく」
蓑傘が静かに答える。
恐らく見限の組に関わる前の過去が存在しなかったと言う事だろう。
「今回はかなり大がかりな仕掛けが行われました。恐らくその二人は潜入捜査官レベルではないでしょう。もっと上のレベルの人間ですよ」
「公安」
蓑傘と言葉が被った。
「そしてもう一つ。『蠍』は公安の配下にある暗殺集団。これは私なりに調べた結果、辿り着いた回答です」
蓑傘は目の前で両手を組み、力強く話したが、冷静さを保ったままだった。
やはり食えない男。
ただ、今回の情報交換はかなり意義があった。
恐らく公安が動いたと言う事は、国益が絡んでのことだろう。
国益も重要だが、人の命を軽く扱う行為は許せない。
どんな人間でも、命の重さは同じなんだよ!
これから先は刑事としてではなく、人間『沖田 えりな』として動く。
先ずは、峰島と見限の本名を調べることからだ。
二人をとことん追いかけ、追い詰める。
『蠍』と一戦を交えて、命を落とすことになっても。
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