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車に乗り込み、三十分は経過しただろうか。
人里離れた廃屋のような小屋の所に、奈賀月に奪われた車を発見した。
奪われたと言うよりかは、奪わせた、だけどね。
私達は小屋に近づき、一旦、近づくのを止める。
盗聴器の受信機とカメラのモニターのスイッチを入れる。小屋の中の様子が映し出される。
見限と奈賀月の二人がモニターに映し出される。
二人の会話も良く聞こえる。
録画と録音の開始だ。
会話と動画の内容からすると、奈賀月は見限に助けを求め、私達を何とかして欲しいとお願いをしている。
「自分に降りかかる火の粉を払えないようでは、公安としてやっていくのは無理だな」
見限の冷たい声が響く。
「安心しろ。あの二人の処分については既に依頼をしてある」
見限はニヤリと笑うと同時に、銃を抜き、奈賀月を撃ち殺した。
マズイな。
私達は『蠍』の標的になった。
「蓑傘さん。暫く身を隠しましょう。かなりヤバイ状態になってしまいましたから」
真剣な表情で蓑傘に話しかける。
「そうですね。『蠍』を相手に逃げ延びる事が出来るかどうか分かりませんが、逃げるしか手段はなさそうですね」
蓑傘は右手で帽子を押さえながら、呟くように話す。
「それじゃ、お別れですね。蓑傘さん。ご無事を祈ってますよ」
「レイラさんこそ。生き延びてください」
私は右手を軽く上げ、笑みを浮かべる。
「待ってください。これから先、ナイフ一本じゃきついでしょう。これを」
蓑傘は拳銃のスライドの部分を持ち、私に手渡そうとする。
蓑傘はニヤリと笑い、トリガーに指をかけて拳銃を回転させて、銃口を私に向けた!
瞬時に、右手で拳銃のスライドを抑えると同時に、左手で蓑傘の右手の下を抑え、銃を持つ右手を左側に曲げる。
湿った木が折れるような音が響く。
蓑傘が悲鳴を上げると同時に、右の前蹴りで蓑傘の股間を蹴り抜く。
ぐぐもった声を上げて、跪く蓑傘。
私は笑みを浮かべ、奪った拳銃の銃口を蓑傘の顔面に向ける。
「レッ、レイラさん。貴方は一体、何者なんだ」
蓑傘は汗にまみれた苦しい表情を浮かべて問いかける。
指を折られた上にアソコを破壊されたからね。
苦しいでしょう。
「ただの情報屋ですよ。今度こそ、本当にさようなら。岸庭(きしば)さん」
銃声が響くと同時に、岸庭は苦しみから一気に驚愕の表情に変わり、バッタリと倒れ込んだ。
銃声を響かせた数秒後に小屋のドアが開く。
物陰に身を隠す。
ドアを開き、数秒間、見限は外を眺めて、直ぐにドアを閉めた。
私は、一気に車に乗り、この場を離れる。
岸庭。
最初から胡散臭いと思っていた。雲幻会の幹部クラスにいて、龍昇会とつるんでいる情報屋の私と組む事態が怪し過ぎでしょう。
それに、どうして幹部が抗争で無事だったのかな。普通、無傷ではすまないでしょう。
決め手はハッカーさんから頂いた公安職員の名簿だったけどね。サービスに感謝するしかないわね。
それに、事の流れが上手く行き過ぎでしょう。
奈賀月は奴らにとっては尊い犠牲と言う事かな。
公安は仲間だろうと、目的達成の為なら、仲間を見捨てる事を厭わない。
見限と岸庭は恐らく組んでいたのだろう。
そして、公安の仲間に当たりをつけた私の抹殺も、奴らの計画の中に加えられていた。
しかも、今回、私を狙うのは『蠍』。公安お抱えの殺し屋集団。
逃げ切るより、戦うしかないみたいね。
笑みを浮かべてしまう。
あれこれ考えている中、私の運転は繁華街へと向かっていた。
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