1/2
前へ
/26ページ
次へ

 私は繁華街をうろつく。  何となくだが強い殺意を感じている。  相手は一人。  過去の例から考えると、奴らのやり方は一人を狙う時は一人の殺し屋で対応している。一対一の戦いになるだろう。  だが、相手はかなりの手練れ。  組の幹部クラスを、察知されずに、瞬殺してきている。  決して油断は出来ない。  この繁華街も見飽きてきたわね。  私は繁華街を離れ、裏通りの先にある、倉庫のような建物を目指す。  そこは廃屋と同じような状態で、立入禁止の看板があり、誰も入ってこない。  裏通りを一気に抜け、錆びた鎖を跨ぎ、倉庫の中へと入っていく。  埃が舞う、うす暗い部屋に辿り着く。  僅かに刺し込む光が、舞い散る細かい塵を鮮やかに映し出す。  ここなら誰にも迷惑はかからないでしょう。  それに、邪魔も入らない。  私は笑みを浮かべて振り向く。  繁華街にいた時から気付いていた、強力な殺意を確かめるために!  一人の男が立っていた。  スキンヘッドで鋭い吊り上がった目。豹を思わせるような体つき。鞭のようなしなやかさと破壊力を備えているような感じだ。 「私を殺した後に、お経を唱えるつもり」  厭らしい笑みを浮かべて、話しかける。 「そんなつもりはない。お前を殺せと言う指示に従うのみだ。悪く思わないでくれ」 「人を殺して、悪く思ないでくれとは、救いようがないわね」 「私は使命に生きる者」 「毒虫さんが哲学をかたるとはね。お名前は?」 「死に行く者に語っても意味は無いと思うが、奏念(そうねん)と申す」 「やっぱり。お坊さんじゃない」 「無駄話は終わりにして、始めようか。貴方はかなり強い。一筋縄ではいかなそうだな」  奏念はそう語り、右手に手槍を握る。  私は懐から警棒を取り出し、斜め下に振り、鈍い金属音を倉庫内に響かせる。
/26ページ

最初のコメントを投稿しよう!

23人が本棚に入れています
本棚に追加