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蠍
私は繁華街をうろつく。
何となくだが強い殺意を感じている。
相手は一人。
過去の例から考えると、奴らのやり方は一人を狙う時は一人の殺し屋で対応している。一対一の戦いになるだろう。
だが、相手はかなりの手練れ。
組の幹部クラスを、察知されずに、瞬殺してきている。
決して油断は出来ない。
この繁華街も見飽きてきたわね。
私は繁華街を離れ、裏通りの先にある、倉庫のような建物を目指す。
そこは廃屋と同じような状態で、立入禁止の看板があり、誰も入ってこない。
裏通りを一気に抜け、錆びた鎖を跨ぎ、倉庫の中へと入っていく。
埃が舞う、うす暗い部屋に辿り着く。
僅かに刺し込む光が、舞い散る細かい塵を鮮やかに映し出す。
ここなら誰にも迷惑はかからないでしょう。
それに、邪魔も入らない。
私は笑みを浮かべて振り向く。
繁華街にいた時から気付いていた、強力な殺意を確かめるために!
一人の男が立っていた。
スキンヘッドで鋭い吊り上がった目。豹を思わせるような体つき。鞭のようなしなやかさと破壊力を備えているような感じだ。
「私を殺した後に、お経を唱えるつもり」
厭らしい笑みを浮かべて、話しかける。
「そんなつもりはない。お前を殺せと言う指示に従うのみだ。悪く思わないでくれ」
「人を殺して、悪く思ないでくれとは、救いようがないわね」
「私は使命に生きる者」
「毒虫さんが哲学をかたるとはね。お名前は?」
「死に行く者に語っても意味は無いと思うが、奏念(そうねん)と申す」
「やっぱり。お坊さんじゃない」
「無駄話は終わりにして、始めようか。貴方はかなり強い。一筋縄ではいかなそうだな」
奏念はそう語り、右手に手槍を握る。
私は懐から警棒を取り出し、斜め下に振り、鈍い金属音を倉庫内に響かせる。
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