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折衝
時代に見捨てられ、時間が止まっているかのような雰囲気の中、胡散臭い空気感に支配される名もなきバー。
公安職員の専用のバーと言う訳ではないが、寛ぐことの許されない、嫌な緊張感が漂っている。
バーの奥で一人、コーヒー一杯で粘り続ける。
見限に会うまではこれを続けるよ。店の人には悪いけど。
そんな想いを抱き、にやけていたら、見限が店の中に入ってきた。
私は遠慮なく、見限の隣に座る。
「少しお話しませんか。これから先のことでも」
見限は私を見て、親指で後ろを指し、奥の席に行くよう指図をする。
奥の席のソファーに座り、膝を組み、笑みを浮かべる。
「ご用件は何でしょうか」
見限は惚けた感じで話しかけてくる。
「そうですね~。先ずは毒虫が私にたからないようにしてくれます。一匹は捻り潰しましたが、この後、何匹もこられると厄介なので。それと、これから先は、色々と協力し合いませんか。同じ警察官同士でいがみ合っていても仕方ないでしょう。和原 公平(かずはら こうへい)さん」
最後の私の一言で、和原の表情が一気に変わり、身を乗り出そうとする。
笑いが止まらない。
「和原さん。私に何かあったら、この前、廃屋で可愛い娘を銃で撃ち殺した動画が、世界中に流れますよ」
和原は、落ち着いた表情に戻り、ソファーに座る。
「分かりましたよ。『蠍』への依頼は取り消します。そうですね。貴方と手を組むのも悪くなさそうですね。貴方は身体能力も頭脳もかなり秀でている」
「お褒めに預かり、光栄です」
静かに笑みを浮かべる。
「それじゃ、約束は必ず守ってくださいよ。もし、守られなかった場合は、どうなるかお判りですよね。公安職員でいられなくなるくらいじゃ済まないですよ」
念には念を入れておかないとね。
「約束は必ず守ります。それと、今後の協力体制、よろしくお願いしますよ。沖田さん」
貴方の正体にも気づいていますよと言わんばかりだ。最後の一言は挑発にもかんじられる。
「私は身バレしても特に困らないので。これからは仲良くやっていきましょうね」
私はそう言い残し、和原に背を向け、バーを後にした。
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