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潜入
私は龍昇会の事務所にいる。実は気なっていた女性がいたからだ。彼女はここで普通のスーツを着て、事務的な仕事をこなしているのだ。どう見ても普通の女性。ここでは気になる存在となってしまう筈だが、組員の皆は挨拶と世間話をするくらいで、余り気にかけていないように感じる。
彼女の名前は、峰島 優菜(みねしま ゆうな)。ここでは違和感が溢れてしまう存在。
甚が痣の出来た顔で事務所に入ってきた。
「どうした。甚。誰にやられた」
組員の皆が心配して駆け寄ってくる。
「転んだだけです」
「何やってるんだ。気をつけろ!」
会話はそこで終了したが、私はそうはいかない。
私は甚の背後から、こっそりと囁くように話しかける。
「嘘をついちゃ駄目でしょう。素直に雲幻会にボコボコにされたって言ったらどう」
甚は身体をビクッと震わせて、怖い表情を浮かべて、私に話をしてくる。
「外で話をしませんか」
私はニヤリと笑い甚について行き、事務所の外に出て、事務所の裏側へと行く。
甚に昨日の事を何処かで見ていたかのように話す。
「レイラさん。このことは二人だけの秘密にしてください。お願いします」
甚は両手を合わせて、頭を下げる。
甚にとって、ミスを犯してしまったことが、組に分かってしまうことは、避けたいところだよね。
「良いわよ。私は口が堅い方なの。その代わり、私のお願いを聞いてくれるかしら」
意地悪な笑みを浮かべる。
「俺の出来る範囲のことでしたら」
「峰島さんを調べて欲しいのよ。ちょっと気になるの」
「彼女ですか?堅気ですよ」
「そんな堅気の人がここで働くなんて気にならない?」
嫌な笑みを浮かべて見せる。
「そっ、そう言われてみれば変ですね」
「そうでしょう。よろしく頼むはね」
私は甚に軽く手を振り、事務所を後にして、繁華街へと行くことにした。
人の集まる所には、思わぬ情報が転がっているから。
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