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夜になっても眠る事の無い繁華街。雑然とした創りの街ではあるが、悪い気はしない。裏通りに入れば、人が一人、やっと通れるくらいの道幅となる。道と言うか、建物と建物の隙間を道の代わりにしているようにも感じるけどね。
私は建物の壁を背凭れにして、蓑傘を待つ。
「レイラさん。今日はどうされました?」
帽子を右手で触りながら、不敵な雰囲気を漂わせて、蓑傘が現れた。
「見限さんの動きはどうですか」
いきなり気になっている件をぶつけてみる。
「単刀直入ですね。私の見た限りでは特に怪しい点は、今の所ありませんが」
「そうですか。引き続き注意をした方が良いと思いますよ」
「こだわりますね。では、引き続きということで」
「ところで、何か目新しい情報はありますか」
「今の所ないですね。警察の動きも小康状態のようですし、龍昇会の方もこれと言った動きはないですね」
今の所、特にお互いを上手く操作出来るような有益な情報は持っていない。
今夜は空振りと言ったとこだろうか。
「ただ、長年の経験による勘ですかね。最近、嫌な空気の流れを感じてはいますがね」
蓑傘は意味深な言葉を、溜息を吐き出すような感じで言う。
「私も不穏な風を感じていますよ。中々、振り払えなくて困っています」
「レイラさんは、この道、長いんですか」
「駆け出しです」
少し厭らしい笑みを浮かべて見せる。
「ご冗談を。レイラさんから血の匂いを感じます。かなりの修羅場を経験してきた感じがしますが」
蓑傘はニヤリと笑う。
侮れない人間であることは重々承知している。
だから、面白い。
「私はそんな物騒な人間じゃないですよ。ケチな情報屋です」
ニヤついた感じで答える。
「今のところは、そういう事にしておきましょう。今日はこの辺で」
蓑傘はそう言うと、軽く会釈をして、私の前から消えていった。
喰えない男だね。
そんな想いを感じる中、何処か妙な信頼感を漂わせる孤独な後ろ姿を暫く見ていたが、そんな哀愁感のある景色も、夜の繁華街の喧騒の中に消えていった。
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