暗殺者

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 今回の件を抗争の火種にするなら、雲幻会さんの方でも同じ事が起きている可能性があるよね。  ここは情報交換と行くしかないでしょう。  お互いに冷静になってもらわないと困るからね。  お互いに同じことが起こっていれば、普通ならお互い考え直すでしょう。  早速、蓑傘に会う事にする。  情報のやり取りの基本は常にアナログだ。デジタルが基本となった時代では、証拠物件が最も残りにくいからね。  私達が会うのは常に日の当たる事のない裏通り。  午後でも薄暗く、眠っているような状態の古い建物の密集地。中には擬洋風建築を思わせるような建物もあり、不思議な世界観を醸し出す瞬間もある。  何時ものように壁を背にしていたら、蓑傘が何時ものスタイルで現れる。 「レイラさん。そちらでひと騒動あったようですね」 「ええ。そちらもでしょう」  蓑傘は息を洩らして笑みを浮かべ、帽子を右手で抑える。 「とても嫌な空気の流れしか感じなくなりましたよ」 「その嫌な流れを止めるための情報交換です」  私は笑みを浮かべる。  お互い、今日、組で起こった事を話しだす。  同じような事が起こっていたのだ。これから組を背負って行くであろう者が、ころされたのだ。しかも、かなり凄腕の殺し屋に。 「レイラさんの見立ては間違いないでしょう。私もそう思います。相手はかなりの手練れです」 「何者かが殺し屋を雇い、二つの組を抗争に持ち込もうとした。正解かしら」 「間違いないと思いますが、目的が見えない。何故、抗争に持ち込みたいのか」 「目的ね~。これから探っていくしかないでしょう」 「目的が分からない事には、敵についても皆目見当がつきませんからね」 「そう言うことです。依頼した奴が誰か。組の重要情報を流した人間。それと殺し屋の正体ですかね」 「その辺になりますかね。ところで、殺し屋なら多少の当たりはつけていますよ。レイラさん」  蓑傘はニヤリと笑って見せる。 「誰なの。私はプロの中のプロとしか」 「レイラさんも少しは思い浮かべてはいるんじゃないですか。『蠍』と呼ばれている暗殺者集団を」  『蠍』……。  噂でしか聞いたことがない。この国で最も恐れられている暗殺者グループとして。依頼された殺しは必ず実行。しかもどんな内容でも失敗はない。証拠も殆ど残さない為、警察もお手上げ状態の連中だ。 「どうしました。黙ってしまうとはレイラさんらしくない」 「蠍ね~。確かに裏の世界でも、恐れられている連中ですが、その実態は謎。今回の殺しの件を請け負った可能性は無きにしも非ず。ですけどね~」  蓑傘は静かに微笑む。 「今日はこの辺にしましょうか。有益な情報交換でした。これからも情報は交換していきましょう。嫌な空気の流れを振り払うために」 「そうですね。抗争を行っても、お互いに何の得もないですから」  私は蓑傘と別れ、龍昇会の事務所へと戻り、雲幻会でも同じ事が起こっている事を伝えた。  組としては暫く様子を見るとの判断になった。警察が殺人事件の捜査を行っていると言う点もあるかもしれない。  ただ、情報をもっと集めてくるよう言われた。  そして、『蠍』に関しては、何とも言えない雰囲気だった。実態が謎に包まれているだけに、『はいそうですか』とはいかないのが実際のところだろう。
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