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地球化学部棟(ちきゅうかがくぶとう)】 大学時代のほとんどを過ごした地球化学部棟(ちきゅうかがくぶとう)……略して地学部棟に懐かしさが込みあげてくる。雪の中の蝶と聞いて、すぐ思いつかなかったのが不思議なくらいだ。足下は案外見えないものかもしれない。 「山下(やました)?いるか?」 年季の入った建物の2階にある一室をノックをしてみると、ドタドタと足音が聞こえてすぐに扉が開かれた。 「椎名(しいな)先輩!お久しぶりですね。電話いただいて、僕びっくりしちゃいましたよ」 「悪いな急に。すぐ帰るから。それよりあれ、どこにある?」 山下(やました)……院へ進んで現在も研究を続けている後輩は奥の部屋を指さす。 「変わらずありますよ。どうぞ」 【薄片作製室(はくへんさくせいしつ)】 「はくへん……ですか?」 部屋のプレートを見つめて佐野(さの)が首を傾げると、鍵を開けながら山下(やました)が小さく笑う。 「地学専攻でもないとあんまり馴染みがないですよね。薄片(はくへん)というのは薄いカケラのことです」 「カケラ?」 「はい、岩石や鉄なんかを光が通るくらいの薄さまで研磨したサンプルです。それを特殊な顕微鏡で観察することで鉱物の構造や時代背景なんかを知ることができるんですよ」 「でも、石をそんなに薄くできるんですか?」 「機械を使えば可能です」 扉が開いて雑多な部屋が姿を現すと、中心のクレープ焼き器のような円盤の研磨機が目立っている。
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