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「この研磨機で削って、ひたすら薄くしていきます。コツがいる手作業ですけど、椎名先輩はプロ級に薄片作りが上手でして。特に白い鉱物を先輩が削ると、まるで昆虫の羽のような美しさになるんですよ」
「昆虫の羽……」
山下から尊敬の目を向けられて俺は困る。そんな立派なもんじゃない。ただ楽しかっただけに限る。
「ですから先輩、学園祭の時の子供向け実験の企画で三角形の薄片をたくさん準備してね、子ども達に『鉱物の蝶』を作ってもらったんです」
「鉱物の蝶......」
「2枚重ねて接着剤で止めるだけだけどな」
「あとは色を塗ってもらったり、造花に貼り付けてもらったりしましたよね。ほら、そこに実物がありますよ」
研磨機の裏側に横長の棚があった。その上に……
「あ」
樹脂粘土のチューリップは我ながらリアルにできたと思う。子ども達がつくった蝶を花の部分に貼り付けてもらった賑やかしい力作が、今も変わらずここにあった。
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