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「これです!私があの時、雪の中でみた蝶は」 「そういえば、あの年の学園祭は途中から雪が降ってきましたね。学内に色々と避難させてましたが、確かこれを運んだのは一番最後でしたよ。ね、先輩?」 そうだと俺は答える。企画用の屋外スペースでは他にもたくさんの実験を行っていたので、それらの装置の避難を優先し、自分の出し物は一番最後にした。だから蝶たちは一定の時間、雪の中にいたことになる。 「そうでした。あの時、皆さん慌てて片付けしてました。テーブルにポツンとこれだけ残っていて......すごくキレイだった。魔法みたいだった。先生の作品だったなんて」 「正確には小学生との合作だけどな」 佐野(さの)が言いながら見惚れるような表情を蝶たちに向けるので照れくさくなる。自分の企画を覚えていた人間がいたことが単純に嬉しかった。 「すぐ思い当たらなくて悪かった。もう10年も前になるからすっかり忘れてたんだ」 「全部思い出しました。雪まみれになって、これを運んでるお兄さんがいましたっけ。一生懸命なお兄さん......だから私......先生のこと......」 「ん?」 かなりの小声でよく聞こえなかったが、嬉しそうな佐野(さの)の表情に俺は心から安心した。
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