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「本格的に降ってきたな」
山下に礼を言い、研究室で借りた1本のビニール傘で佐野と帰り路を急いでいると、ずっと無言だった佐野が不意にこちらを見上げてきた。
「先生、ありがとうございました。最後に蝶の正体がわかって嬉しかったです。私の、最高の雪の思い出です」
「いや、最後って」
「だってもう先生には会えませんから。今まで、本当にありが......」
鼻をすする音にたまらず咳払いをして言葉を制した俺は、ふと顔を上げてみる。舞い落ちる真っ白な雪が、あの鉱物の蝶たちと重なった。なんだか背中を押してくれているようで急に心強くなり、そのまま口を開く。
「俺でいいのか?」
「え」
教師が生徒に好意を抱くなんて、どんな理由を付けたってただの卑怯だ。だけどあの蝶たちを見た日を最高と評してくれたこの子の雪の思い出を、悲しみで上書きなんてしたくなかった。
もし。
もしもお前が、こんな俺でもいいならだけど。
「先生が......いいです」
右肩にぬくもりを感じる。
その一言に紅潮する。
そしてしっかりと自覚してしまった。
言い訳がましく色々考えていたが、結局俺は。
ずっと前からこの子を好いていたんだと。
ー完ー
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