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「そんなに楽しかったか?植物園」 「はい、とっても」 そうかと頷いたところで、鼻頭に冷たいものが当たる。見上げてみると早くも粉雪が舞い始めていた。 「もう降ってきたか」 雪に気をとられていると何かを蹴った感触があり、軽くつまずく。 「大丈夫ですか?この辺は石ころが多いから気をつけてくださいね」 「ん……石?なあ、蝶って白いのだけだったか?」 「2、3匹はカラフルな子もいましたけど、ほぼ白でした。でも純白じゃなくて少し黒ずんでたような。ぼんやりした記憶ですみません」 「うーん。もしかしてその蝶、蜜を吸ってるだけで飛んではいなかったんじゃないか?」 「あ、そうです。飛んだところは見てないですね」 なるほどな。 蝶は飛んでいるというのは、俺の思い込みだったか。 改めて情報を整理すると、自分の大学時代が思い起こされてくる。次第に学園祭の様子が頭に思い浮かんできて、蝶の正体もうっすらと見えてくる。 「佐野(さの)、今からもう一箇所……」 「今日はもういいです。ありがとうございました!」 「え?」 「あの、もうこんな時間ですし。良かったらうちで夕飯食べて行きませんか?」 話を遮って、佐野(さの)が早口で提案してくるので俺は首を傾げた。 「(しょう)たち来るのか?」 「来ませんけど。でもうち、すぐ近くですし」 この間も行ってるんだから、それはもちろん知ってるが。
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