七先輩のおはなし

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 はいはい、どーも。君らが新人? けっこういるじゃん。  えー今日は、『同じ職場の先輩に大変だったこと、良かったことホンネを聞いちゃおう!』。 え、何こういう事してんだここ、初めて知ったわ。  えーっと、はい。じゃあね、君らの七年先輩である俺の大変だったとと良かったことをお話しまーす。何、若く見えるって? よく言われるー。  まずは大変だったことね。一年目の初っ端の仕事。これしかないね。真冬のさあ、雪山登らされてさー、まじで死んだと思った。どういう風に聞いてるかは知らんけど、ここでの仕事なんてほとんど何でも屋みたいなもんだからね、俺も若くて体力ある馬鹿ってことで採用してもらってるし文句はないんだけど、不満はどうしても出るよね。  で、どういう仕事だったかというと、その山に入った人間が帰ってこないから、その調査をしてほしいって依頼。一人二人ならスルーされたんだろうがこれがかなりの人数でさ、しかも働き盛りの若い男ばっかだったんで、さすがにまずいってんでそこの村からの依頼だったんだよ。  嫌な予感はしてたんだよなあ。俺の他に同期一人と上司二人で、とりあえず山小屋まで辿り着いたはいいんだけど、予報では収まるはずだった雪は一向に止まないし、それどころかどんどん激しくなってさ。二人一組で周辺調査なんてそんな余裕なかった。  暖炉に火を起こして、それでもぶるぶる震えながら美味くもまずくもないブロック齧って。どっちにしろ夜はじっとしているしかないんだけど、この暴風雪がどうにかなんなかったらアウトだなって、そんなことを考えてたと思う。  そんな時に、扉の方から音がした。明らかに外から誰かがノックしている音だった。全員が扉を見て、そしてすぐに目くばせし合った。  まじかって思ったね。ありえないもんだって。絶対人間じゃないじゃん。開けたくなかったけど、でも開けるしかなかったよ、だってずっとノックし続けるんだから。無視すればいいって思ってるだろ? 無理無理、同じ状況になったら絶対お前らも開けるから。あんなのはさ、開けなくったって悪いことが起きたと断言できるよ。開けても悪いことはもちろん起きたけどね。  扉の前に立っていたのは一人の女性だった。血の気のまったくない顔をした、痩せた女だった。自分はこのあたりに住んでるんだけど、この雪で道に迷っちゃったから一晩泊めてくれないか、そんな内容のことをそいつは言った。  どう考えてもそんなわけないんだけど、結果として、俺たちはそれを了承した。あのね? 扉の前にいたのがエイリアンだったら断るか倒すか逃げ出したと思うよ? でも実際目に映っているのは弱々しい人間なんだよ、断れないよ。  そんで、んー、そっからの記憶は非常に曖昧なんだなあ。それからその人含めた五人で和やかな雰囲気で談笑していたような気がするんだけど、いや、でもなんで急にあんな楽しい感じになったんだろ、ていうか、……あいつらは誰だ? 知らない奴がいる……。  あ、すまん。このときのこと思い出そうとすると記憶が混乱するんだわ。まあなんせ俺の持つ次の記憶は七年後までぶっ飛ぶんでね。  記憶喪失、んーそういうのとは違う。  俺さあ、ついこの間まで雪に埋もれて凍ってたんだんだよ、七年間ずっと。コールドスリープ? 仮死状態? どれかよく分かんないけど。  一緒に行った仕事仲間も、あとたぶん行方不明になってた若い男たち全員、おんなじように氷漬けになって発見されたってさ。  あの後、あ、七年前のあの後ね。調査に行ったやつらも誰も帰ってこないし、雪はいつまで経っても止まないしってんで、もういっそ入山禁止にしちゃおうってことになったんだと。そしてその七年後の今年、急に雪が止んで、そういえば昔大勢の人が行方不明になってたよなってことで、新たに任命された調査隊が登ってみると、溶けた雪の下から何人もの死体が出てきたって話らしい。生きてたのは俺だけ。  まーびっくりよ、浦島太郎だね、でも急にじじいになったりしないから浦島より断然好待遇だけど。  これが俺が唯一やった仕事で、一番大変だったこと。  良かったことは、ギリ死亡認定前に戻って来られたことと、七年分の給料が一気に振り込まれたことでーす。みなさんもぜひ参考にしてみてください。
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